SIDE 日向翔陽

「…」



心臓が飛び出そうだった。
影山から部活前に呼び出される。しかも人気のない校舎裏。


これが女の子なら告白かも、なんて浮かれるシチュエーションだけど
俺達に限ってそれはない。むしろ今までの流れでいくと…



「終わらせようって…話だろうな。」



考えたら涙が出そうで首をぶんぶんと横に振る。
いつかは終わりが来る話だ。これ以上傷つく前に終わらせるのが
俺にとっても…そして影山にとっても一番なんだ。







「あ。」




校舎裏。
黒い髪が風に揺られていた。


ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン



「うーっす。」


ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン


動揺を悟られるな。平然と振る舞え。
終わりにしようと言われたら笑ってわかったって答えるんだ。




「よぉ。」



低い声。俺の大好きな…声。
あぁ…ほんと…大好き。俺…影山が好き。



「話って…何?」

「とりあえず座れよ。」




促されるまま、校舎を背にして座り込む。
すると影山は何故か俺の目の前に座り込んだ。


そしてじわじわと距離を詰められる。



何がどうなっているのかわからない。
影山は俺との関係を終わりにするためにここに俺を呼び出して…


なのに…どうしてこんなに顔が…近い。






ちゅ。



混乱が冷めたのはそんな小さな音と唇の感触。思わず目を見開く。



あぁ、影山は何も分かってくれてはいなかったんだ。
俺がキスを拒否した気持ちも…何も伝わっていなかった。



「…なに、してんの?」



影山は何も言わず俺を見つめる。



「…それやめてって言ったじゃん。」



言ったよね?あの夜、俺はちゃんと言ったよ?



「影山の事、諦められなくなるし、勘違いしそうになるからって。」



そう…ちゃんと言ったじゃん。どうしてわかってくれないの?
どうして…ただの慰めにしてくれないの?



「何でさー、好きでもねーのにこういう事すんだよ。」



お前は菅原さんが好きなんだろ?
俺の事好きじゃないんだろ?

だったらやめてよ。キスなんてしないでよ。俺をこれ以上傷つけないでよ。



「ひっでー奴だなー」



今回だけは笑って見逃すから。
なんでもないふりして笑うからさ。


もう…もう、これ以上は…











「好きだ。」







「日向が、好き。」











耳の近くで そう聞こえた。





びっくりして顔をあげたら、また唇がくっついた。










気付けば涙が…ぼろぼろと伝っていく。

涙の膜の向こうの影山は、
あの日俺が羨ましいって…一生手に入らないと諦めていた愛しそうな視線を俺に向けている。


これは夢かな?ただの…冗談かな?
俺の耳が、目が、唇が幸せな錯覚をしてるだけなのかな?



でも、もし…そうじゃないなら…





「……かい。」

「ん?」




「もっかい、いって?」




夢じゃないって…冗談じゃないって…
影山が…俺を見てるって…もう一度。





「日向が好きだ。」




コツっと当たるおでこの音と共に響く奇跡の言葉。




「ひっく…」



声が零れる。



夢じゃない。冗談じゃない。
今、確かに影山の目には俺だけが写ってる。


神様…俺は…この幸せを信じていいんだよね?




「はは、うそみてー。」



ほんと嘘みたい。でも嘘じゃない。




「うれしぃ。」




呟いた瞬間、思い切り影山の腕の中に抱きしめられた。
きつくきつく、息が止まりそうなくらい。




「かげ、やまぁ…」

「ん。」



「俺、俺も…すきぃ…」

「しってる。」



「大好き…」

「俺も、大好き。」



「うそ、ちがうよな…?」

「ほんと。」



何度尋ねても返ってくるのは俺を喜ばせる言葉ばかりで
それからしばらく俺は何度も好きを繰り返して、影山はそれにずっと好きと返してくれた。



そしてもうただ泣くしか出来なくなった俺を
影山がもう一度ぎゅっと抱きしめて言う。



「…今まで悪かった。」

「何がー?」


「…色々と。」




影山の悪かったが、一体どれを指すのか俺には分からない。


でも俺にとってそんなことはどうでもいい。
今与えられる温もりと好きの言葉がすべてなんだから。



「影山。」

「ん。」


「好き。」

「そればっかだな。」


「うん。」

「俺も好きだ。日向が好き。好きで…たまんねぇ。」




ゆっくりと身体が離れてくから、慌ててそれを追いかけると
影山は小さく笑って大丈夫と囁く。


どこにもいかない これからはずっと一緒だ



そういって涙でぐしゃぐしゃの俺の顔中にたくさんのキスを降らせたのだ。




*END*

そらと様より、『日向受け落描き2』で描いた『大菅←影←日からのすれ違い影日』を書いていただいちゃいました!
すごい! ひゃっほい! 切ないすれ違い影日!!
私の描いてた落描きのシーンも全部入れていただいた上、更なる萌えシーンまで追加していただけました。個人的に飛雄ちゃんのお誘いの言葉がすごくツボです。
あんな落描きからこんな素敵なお話ができるなんてどういう錬金術なんでしょうか。嬉しい!

漫画では出来ない丁寧な心理描写によって、とても切なくて愛しいお話にしていただけました。
そらと様、日向を幸せにしてくださってありがとうございました!
更にオマケもありますので、皆さん楽しんでくださいませ。

2014/7/23