その日の放課後。

珍しく影山が体調不良だから保健室で休んでて
部活に遅れるとキャプテンから聞いた。

その隣で菅原さんが何故か困ったような顔をしていたけれど
単に影山を心配しているんだと思っていたんだ。部活が終わるまでは。



結局、影山が顔を出さないまま部活は終了。




「王様、部活休むなんてよっぽどなんじゃない?」

「だよね。影山なら40度の熱でも部活には来そうだし。」


月島と山口の会話に俺も納得する。
影山はバレー馬鹿だ。何があったって部活には出てくる。


ちょっとだけ胸騒ぎがした。





「ごめん、先帰るっ!」

「え?日向?」




叫んで自転車を一気に漕ぎ出す。目指すのは昨日の公園。
そこにいる確証はない。けれど確かめずにはいられなかった。

本当にただの体調不良なのか?








「っはぁ…」



全速力でたどり着いた公園。
一見、誰もいない静かな夜の公園だ。

けれど自転車を止めて、俺は公園の中に入る。


その闇夜の中、綺麗な黒髪が蹲っていた。




「影山!?」


驚いて声をかけると、少しだけその頭が揺れる。
けれど顔をあげることはなかった。

俺は急いで駆け寄ってその頭に手を乗せてみる。


「体調わりぃって聞いたけど…熱、は無さそうだな。」


掌に伝わってくるのはおそらく通常の体温。



「熱をはかんのはデコだろ。ボゲェ。」

「はっ!!」



首をかしげていると小さな声が聞こえた。
そうだ、頭で熱は測れない。何やってんだ俺。



「…熱は、ねぇから。」

「じゃあ腹痛とか?」






「…フラれた。」

「ん?」




「菅原さんに、フラれた。」






昨日もこの公園でこれでもかってくらい衝撃を受けたのに
俺はまたしても影山から爆撃を受けた。



「フラれ…た?」

「昼にお前に相談した後、菅原さんにメールした。」


「あ。」


まさかあの後すぐに行動を起こしているとは思いもしなかった。



「それで…?」

「せっかくだから日向達も誘う?って返ってきて
 2人きりで行きたいっつったら…そういう意味なら行けないって。」



そういう意味、つまりはデートってことだろう。



「それで言われた。隠すつもりはなかったけどキャプテンと付き合ってるって。」

「キャプテンと!?」

「声がでけぇよ、ボゲ。」



気付きもしなかった。

確かに菅原さんとキャプテンは仲が良くていつも一緒で…
でもそれは友達で主将副主将の関係だからだとばかり思ってた。



「だから…俺の気持ちには答えられないってさ。」

「…それで部活休んだのか?」


「行くつもりだった。少し気持ちを落ち着かせたら…でも、
 いつまで経っても…落ち着かねぇ。」



俯いたままの影山の肩は震えてる。
気持ちは痛いほどわかる。だって俺だって昨日失恋したんだ。

泣いて、泣き腫らして、それでも苦しさからは解放されなかった。



でも、そんな感情に影山が囚われたままなのは、俺的にもっと苦しくて…



「……なぐさめてやろーか?」


地面を見つめながら、いつのまにかそんな言葉が口から出ていた。
影山が顔を上げる気配がする。




「俺はいいよ?お前の為なら…俺は、一晩の慰めにでもなる。
 俺に飛ぶための翼をくれたお前が少しでも前を向けるなら。」

「…後悔しないのか?」



小さく尋ねられた言葉にこくんと頷く。



ほんとは今の言葉なんて建前で
一回だけでも…影山に触れて欲しかった…そう言ったらお前は俺をケーベツする?





「…」



影山が無言で立ち上がる。
やっぱり…俺じゃダメなんだろうか。菅原さんじゃなきゃ…

そう思った瞬間に、腕をぐいっと引かれた。




「かげ、やま…?」

「今日、うち誰もいないから。」



俺のほうを振り返らず、それでもまるで逃がさないとでも言うように
痕が入るほど強く握られた手。



「…うん。」



頭の中でダメだって誰かが叫んでる。
それでも後戻りはできない。

俺は…どうしようもないくらい影山が好きだから。