そらと様より、『日向受け落描き2』で描いた『大菅←影←日からのすれ違い影日』を書いていただきました。

SIDE 日向翔陽

自覚した時にはもう遅かった。


倒すべき相手、因縁のライバル、
そして今は相棒と呼べるポジションにいる男に寄せる想い。



その真っ直ぐな黒い髪。

俺より遥かに高い長身の姿。

何もかも包み込めそうな大きな掌。

射抜かれたら震えるほどの強い瞳。



挙げだせばキリがないほど、
俺の心は、いつのまにか冗談だろってくらい影山に奪われていた。




俺の為に上がるトスが嬉しくて、
寸分の狂いなくこの手に当たるボールが嬉しくて

そのトスをあげたのが影山だってことに苦しい位幸せ。






あり得ないと思った。
男同士。しかもあの…あの影山飛雄が好きだなんて。



それでも

俺の心は、影山の一挙一動でせわしなく動いて
俺の目は、影山の一挙一動を追いかけて


隣にいたい 大好きだ 俺の想いに気付いて そう、声に出さずに叫んでる。



だけど…俺が見つめた先の影山は、
きっと俺が自覚する前からずっと、俺じゃないあの人を見つめていた。







「おーい、日向ぁ?」

「あ…すいません!」


「いくら影山のトスが欲しいからって俺と組んでる時に
 影山ばっか見てると拗ねちゃうぞ?」

「っ…違うんです!すいません…菅原さん!」





少し意地悪に俺に微笑んでみせる菅原さん。
その顔は時々先輩とは思えないくらい無邪気で俺から見ても可愛くて。


だから…辛くなる。
俺みたいのがこの人に太刀打ちできるはずなんてないと。


俺が影山しか見ていないように、
影山の心は、この人にしか向けられていない。





「おねがいしやーす!!」

「よし!」




くだらない考えを振り切る様に大声を張り上げて、トスを要求する。

山口の手からスガさんの頭上にボールが投げられ
スガさんの手から丁寧なトスが上がる。


宙を舞う、大好きなボール。


あとは踏み込んで、飛んで、ボールを見据えて反対側のコートへ打ち込むだけ。
それなのに…



「っ…」



気付いてしまう。
向こうから向けられる視線に。

決して俺を見ている訳じゃない。俺の向こうにいる菅原さんを見つめる視線。
俺を通り越していく…影山の熱い視線。




「日向!?」

「っうあ!!!」



気付けば俺は、ネットにかかった魚状態に陥っていた。



「うわぁ!!!大丈夫か日向!?」



影山のトスを貰って打ち終えていた旭さんが俺をネットから救出してくれる。
旭さんまじ優しい。



「…すいません。」

「いいよ。どこも怪我はないか?」

「大丈夫か日向!」



すとんと地面に降ろされると菅原さんが慌てて走ってきてくれて
さらに申し訳ない気持ちになる。



「ごめん、ちょっとタイミング合わなかったな。」

「いえ!俺が飛びすぎちゃって…すいませんでした!」



嘘のいい訳で盛大に謝って見せる。
本当の事なんて誰にもわからないように。



「日向ボゲェ!!!てめぇ、きちんとやれよ!」

「や、やってる!!」


ドスドスとやってきて殺す様な勢いで罵倒してくる影山。
だけど…



「まぁまぁ、それだけ日向は影山との相性がいいってことだよ。」

「…嬉しくないッス。」



菅原さんの一言で、大人しくなってしまう影山。
そしてその口からでる言葉に俺はどうしようもない苦しみを覚える。





こんな感情今まで知らなかった。

恋が苦しいなんて漫画とかだけだと思ってた。


好きな人に好きな人がいる。
それがこんなに…死んじゃいそうなほど息が出来ないなんて…知らなかった。




「でも俺とも頑張って合わせてくれると嬉しいな。」

「もちろんです!俺、菅原さんのトス打ちたいです!」



この言葉に嘘はない。
どんなトスだって俺にとってはありがたいトス。

影山からのトスが一番好きだけど…菅原さんのトスだって好きだ。


今は、影山の菅原さんに向ける視線に嫉妬してしまっただけ。
ただ…それだけの事だった。



「じゃあもう一本行こうな。」

「うっす!」



「…」





影山はもう何も言わない。
でもその目はポジションに戻っていく菅原さんを見ている。


その頬は少し赤くて、目は熱を持っていて。









いいなぁ。

好きだって視線を向けられる菅原さんが羨ましいなぁ。


俺には一生手に入らないものだ。



旭さんに嫉妬した時は影山が助けてくれたけど…
その影山が原因の時はどうしたらいいんだろう。




影山の菅原さんへの想いに気付いた時、諦めようって思った。
勝ち目はない。俺には…影山のトスを打つことしか出来ないから。



だから自分に何度も何度も言い聞かせて
それでもこうして菅原さんを見つめる影山を見つめてしまう自分が嫌になる。



誰かこの想いから俺を助けて。

助けて 助けて 助けてよ。


助けてくれないなら…誰かこの想いを…………殺してよ。 










「じゃあ今日の練習はここまで!」

「「「「お疲れさまっしたぁ!!!!」」」」

「すぐ片づけはじめんぞー!」



今日一日の練習が終わる。



「ふぅ。」


小さく息を吐いてタオルに顔を埋める。
使い始めはふかふかで洗剤のいい匂いがしていたのに、今は少し汗臭い。




「おい。」

「…」



「おい日向ボゲェ!!」

「ぅお!?」



視界いっぱいに広がっていたタオルをひったくられて変な声が出る。
そして俺のタオルを掴んでいる相手に気付き、心臓がどくりと大きく跳ねた。



「なんだよ!タオルとんなよ!」

「…話がある。」


「…話?」




嫌な予感がした。

影山の目は怒っても笑ってもいない。
いや、影山が笑ってたらそれはそれで怖い。顔面凶器だ。



「帰り、残れ。」

「…うん。」



それだけ言うと影山はさっさと片付けを始めるために向こうに行ってしまう。



「日向。」

「ん?あ、山口?」



うまく息が吸い込めなくて固まっている俺の所へ
少し心配そうな顔をした山口が近づいてきた。



「あの、大丈夫?」

「え?何が?」


「今、影山になんか言われて固まってたみたいだったから。」

「山口…」



山口はいつも月島と一緒で意地悪な事を言ってくる事も多いけど、
結構優しいヤツだって俺は思ってる。

今もきっと俺がへこんでるように見えたから声をかけてくれたんだ。




「大丈夫!話があるっていわれたんだけど
 多分今日のダメ出しだろうなって一瞬固まっちゃっただけでさ。」

「そっか。今日の日向、あんまり本調子じゃなさそうだったから。
 でも大丈夫ならいいんだ。」


「ん!ありがとな山口!」

「…うん!じゃあ俺行くね!」



そういうと山口は月島のほうへ走っていく。
山口も大概月島の事好きだよなぁ、なんて考えつつ後ろ姿を見ていると

田中さんにさっさと片付け始めろって怒られてしまった。