先輩達が誘ってくれた坂ノ下商店の肉まんを泣く泣く諦めた俺は
今、公園のベンチで影山の隣に座っている。
隣って言ってもお互いのスポーツバッグを挟んでるから距離は結構あったりするけど。
しかし、自分から呼び出しておいて影山は何も言わない。
ただ黙って地面を見つめている。
「話って何?」
だから自分から切り出した。
正直、これ以上の無言が怖かったっていうのもある。
それと…なんとなくだけどさっき感じた
嫌な予感が胸をざわつかせていて落ち着かなかった。
けど、次の影山の言葉を聞いた瞬間、俺は先を促した事を後悔した。
「お前さ…俺の事、好きなのか?」
頭の中が真っ白になる。
影山の言葉の意味がまっすぐ頭に入ってこない。
今、影山は…なんて言った?
「勘違いなら…謝る。」
「え…あ…」
初めての試合なんか比べ物にならないほどの緊張が押し寄せて
俺はただぱくぱくと口を開け閉めするだけ。
「ただ…今日の練習で、お前が菅原さんのトスで
あり得ないミスをしたとき、もしかしてって思った。」
「…ごめん。」
そんな言葉しか出てこない自分は本当に勉強不足だ。
「それはミスに対する謝罪か?」
「…ううん。」
「それなら…」
「うん。俺、影山の事、好き。」
今まで、どれほどこの言葉が言えたらいいだろうと思ってきた
好きの2文字はあっけないほど簡単に口から零れ落ちた。
言えなくて 苦しくて 切なくて 悩んでいたはずなのに。
「俺なんかやめとけよ。」
その言葉は果たして、俺の為なのか影山の為なのか。
そんなことはどうでもいい。
俺の気持ちは影山にバレていて、今日の練習で気付いたってことは、
影山の菅原さんに対する想いに俺が気付いてることも多分影山は分かってて…
よく分かんなくなってきたけど…
はっきりしていることは只一つ。俺はフラれたってことだ。
わかってた。そんなの最初から。
叶わない恋だって…知ってたよ?
でもこんな形で想いを告げて…終わるなんて思わなかった。
言いたい事はいっぱいあって、伝えたい想いもいっぱいある。
だけど…影山の押し殺したような声に、全てを飲み込むしかないのだと悟った。
「うん、ゴメンな。諦める。」
「…」
自棄になった訳じゃない。
だって諦めるしかないのだから。
もう、ボールはコートに落ちてしまった。
「日向、俺は…」
「知ってるよ。菅原さんの事、好きなんだろ?」
「っ…」
だからこれはせめてもの俺の決着だ。
影山の口からはっきりとそれを聞いて、終わらせたい。
「…あぁ。」
苦しい 泣きたい 叫びたい このまま死んでしまいたい
「なら頑張れよ。」
なんて滑稽なんだろう。それでも…そう言うしかないじゃないか。
諦める。
でも俺はやっぱり影山が大好きだから。
せめて…その幸せを祈るくらいは許されるよね?
俺はベンチから立ち上がった。
そして影山の顔を振り返ることなく、いつもの声で言った。
「また明日!トスあげてくれよな!!」
*
「日向、話がある。」
赤い目を寝不足のせいにして、うだうだと過ごしていた昼休憩。
そこにそいつはやってきた。
「何?」
「…屋上。」
あごでしゃくるように俺を促す影山。
単語でしゃべんなよ。
内心ちょっとイラっとしながらも、悲しいかな消えない恋心。
友達に断って俺は影山に従い屋上まで出かけた。
「で、話って何?」
昨日はすまなかったとか言われても困るなぁとか思いながら
影山の言葉を待っていたんだけど…
「相談に、乗って欲しい。」
「…は?」
「昨日、頑張れって言ってくれただろ。だから…その菅原さんの事。」
何言ってんだコイツ。
それが俺が思った事をまとめたすべてだ。
「頑張るにもなにも…その、こーゆー気持ちを男に抱いたのは初めてで
何をどうしたらいいかわかんねーっつーか。」
ちょっとだけ顔を赤くしてそんな事をいう影山。
俺にはこいつを殴る権利があると思う。
大体、昨日ふった相手に恋愛相談ってコイツ思いやりとか欠けすぎだろ。
おれ以外に相談できる友達いねーのかよ、あ、いないのか。いないわな。
「だからお前は友達がいないんだよ。」
「えっ。何でそんな急に人の心抉る様な事言うんだよ!?」
今の俺は死んだ魚のよーな目をしてると思う。
そしてそれを誰も責められないと思う。
それでも…
「はぁー。あのさ、好きならとりあえず休みの日に
どっか出掛けましょうって誘ったりとかするんじゃねーの。」
「それか!!」
律儀に答えてしまう俺は…こんなどうしようもない影山飛雄がまだ好きなのだ。
でもその答えが影山に、そして俺にまで大きな影響を
与えるとは思いもしなかった。