少しだけ気だるい身体を引きずりながら、
俺は山口月島と待ち合わせした駅前へと向かっていた。
頭の中をぐるぐると昨日の事が回っている。
抱かれるのは…もう慣れた。
声を出さないようにするのも慣れた。
でも…キスだけはして欲しくなかったんだ。
だって俺は菅原さんの代わりだから。
そこにキスなんて必要ない。
キスは好きの証だって俺は思ってる。
だから影山とキスはしたい。でもそこに感情がないなら…嫌だ。
「我儘…なのかな。」
身体まで許しておいて、今更キスを拒むなんて…
もしかしたらもう影山は俺を誘わないかもしれない。
ならそれでいいじゃないか。
こんな関係、終わらせたいと自分自身願っていたはずで。
でも、もうあの大きな手に触れてもらえない。
そう思うとどうしようもなく切なくなった。
「日向ー!!」
見えてきた駅の前に山口と月島がいる。
2人の姿を見た瞬間、俺の我慢はぷつりと切れてしまった。
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・
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「君、馬鹿なの?」
「…」
「ツ、ツッキー…それはストレート過ぎ…」
「遠まわしに言って分かる頭じゃないでショ。」
「うん、ほんと…馬鹿だと思う。」
2人を見て泣きだしてしまった俺。
結局外を歩くわけにもいかず、山口の家にお邪魔して洗いざらいを話した。
「…わかっててやってるとか…ただのどMじゃん。」
「…」
「でも…日向はそれくらい、影山が好きなんだね。」
山口の言葉にこくこくと頷く。
好きで好きでたまらない。苦しくてもそばにいたい。
「気持ちは…なんとなく分かるかな。」
「山口…」
「日向が打ち明けてくれたから言うけど…」
そこまで言って山口は月島の顔を見る。
すると月島は一瞬眉を潜めて…小さく頷いた。
「俺とツッキー、付き合ってるんだ。」
「え!?」
言われてみれば納得の話なんだけど、それでも驚いた。
「俺も…もし日向の立場ならそうしたかもしれない。
ツッキーの事好きでたまんなくて、ツッキーの為に自分が
何か出来るなら…そう思っちゃうよ。」
「恥ずかしいからやめなよ山口。」
「ごめんツッキー。」
いつも通りのやりとりにははっと笑って見せてから俺はまた泣いた。
やっぱり…恋は人をおかしくしてしまうんだ。
「でも昨日、ちゅーしようとしてきて…それ拒んじゃった。」
「昨日もヤッたの?」
「ツッキー、オブラート!!」
「だからもう…影山は俺の事誘わないと思う。
2人にこの事を相談しようと思ってたけど、解決…しちゃったかも。」
「日向…」
現状をどうにかしたくて2人に相談したかったから
結果…これで影山が俺を誘わなくなれば、問題はなくなる。
告白する前に…戻るだけだから。
「それで日向は辛くない訳?」
「…辛いよ?でも人の気持ちなんてどうにもならない。
影山は菅原さんが好き。俺は影山が好き。それは…変わらないから。」
「それは…そうなんだけど…」
山口が眉をこれでもかと下げて、俺の頭を撫でてくれる。
優しい手つきで余計に涙が止まらなくなりそうだ。
「ほんと、変な話してごめんな?でも…もう、抱えきれなくて。」
「いいよ。話して…少しでも日向が楽になったなら…ね?ツッキー。」
「…まぁ、別にかまわないよ。このままずっと不調でいられても困る。」
「うん、はやく元に戻れるように頑張る。
影山だって…菅原さんと普通にしてるんだ。俺だって…出来る。」
自分に言い聞かせるように呟いて、2人に笑って見せた。
無理に笑うなって、ハモって怒られたけど…それがなんだか嬉しかった。
それからゲーセンに出かけて、山口の言うとおりクレーンゲームが
めっちゃ上手い月島に景品をいっぱい獲ってもらって
大きな袋を抱えながら帰宅した俺を夏がまんまるの目で出迎えてくれた。
ゆっくり風呂に入って、ごはんをたっぷり食べて
獲ってもらったぬいぐるみを部屋に並べる。
「これは月島と山口にそっくりで…これは…影山に似てるな。」
眼鏡をかけた猫、そばかすのある猫、そして目つきの悪い猫。
もう一匹の小さいオレンジの猫が自分に見えてきた。
月島猫と山口猫をぴったりとくっつけて並べてみる。
「仲良し、いいな。」
そして残った影山猫と俺猫を…同じようにくっつけて並べた。
「せめて、お前達だけは仲良しで、な。」
意味のない行為。
それでもぬいぐるみの猫はなんか幸せそうに見えた。