「影山に続いて日向も体調不良かー。
バカにだけ感染するウイルスでも流行ってんのかね。」
「それなら田中もかかってないとおかしいだろ。」
「大地サン!?」
朝練の時間。
ここに今、いつものあのうるさい姿はない。
昨日の夜。
菅原さんに失恋した俺にあいつはこう言った。
『……なぐさめてやろーか?』
何を言ってるんだと思った。
仮にも前の日に、俺は…日向の気持ちを否定した。
それなのにあのチビは、部活に出なかった俺を息を切らして追いかけてきて
とどめにそんな一言を放ったのだ。
馬鹿だ 滑稽だ くだらない そう思った。
それなのに、どこまでもまっすぐなあのバカは言葉を続けた。
『俺はいいよ?お前の為なら…俺は、一晩の慰めにでもなる。
俺に飛ぶための翼をくれたお前が少しでも前を向けるなら。』
弱っていたんだと思う。
それじゃなきゃそんな言葉に乗ったりはしない。
俺は…フラれたって菅原さんが好きなままなのだから。
でも、いつまでたっても消えてくれない胸の苦しさに嫌気がさして
気付けば俺は日向の腕を掴んでいた。
体温が高い。じんわりと掌に日向の熱が伝わって…
俺は両親のいない自分の家に日向を連れ帰り、
そのまま体を重ねた。
後悔…してない訳じゃない。
なんてことをしてしまったんだとぐったりした日向を見て思った。
それでも…胸の苦しさは少しだけ消えていて
気を失っている日向の髪をくしゃりと撫でてみた。
いつもふわふわとした髪は汗ですこししっとりしている。
閉じられた目の周りは真っ赤。
俺が抱いている間、日向は一言も声をあげなかった。
不慣れな行為は痛みや苦しさばかりだったはず。
それなのに…やめてくれとも言わずにただシーツを掴んで
耐えていた日向に、何も声をかけることが出来なかった。
「…ボゲ。」
今日の朝、学校と部活を休むとLINEが届いていて、
お前のせいじゃないからと書かれていたけど
昨日、目を覚ました後の日向は明らかに苦しそうで、
それでも笑顔を見せて帰っていった。だから多分今日のは俺のせいだ。
でなければあのバレー馬鹿がただの体調不良で休む訳ない。
いつだってキラキラした目でボールに向かって飛んでくるんだ。
その姿を思うと…少しだけ心が痛んだ。
「影山。」
「…菅原さん。」
そんな事を考えていると、菅原さんが近づいてくる。
「その…大丈夫か?」
「あ…はい。大丈夫です。」
気にかけてくれるのは体調不良で部活を休んだから、だと思う。
「そうか…その、俺…」
いつも穏やかな笑顔の菅原さんの表情が曇る。
そんな顔をしてほしかった訳じゃない。
「菅原さん。」
「ん。」
「これからも、よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げる。
例え菅原さんの一番になれなくても…俺はこの人が好きで
憧れるセッターであることに変わりはない。
残り短い時間。ギスギスしたままは嫌だ。
「…うん。こちらこそ。」
そういって菅原さんはやっと笑ってくれて、
その笑顔に少しだけ救われた。それと同時にその笑顔に一瞬だけ…
日向の笑顔が被った気がした。