影山と"慰め"という口実で関係を持ってから1ケ月が経った。
その間、影山と菅原さんは何も変わらなかった。
部活の先輩後輩としてギクシャクすることなく過ごしている。
俺も、また表面上は影山と変わらず今まで通りだ。
しかし、それはあくまで表面上。
休憩時間、俺の携帯が震える。LINEの通知。相手は…影山。
"今夜親いない"
「…」
そう、一度限りだと思っていた体の関係は…未だ続いている。
このフレーズはその合図。
"わかった"
短くそう返して携帯をしまう。
「はぁ…」
「ん?日向どうかしたの?」
「いや?別になんでもないー。」
心配する友人に笑顔を作って見せる。でも…心の中は真っ暗だ。
影山に抱かれるのは…正直、嬉しいと感じる。
好きでたまらない相手に触れられて嫌だと思う奴はいないだろう。
でもそれは偽りの行為。
影山の菅原さんへの断ち切れない想いを誤魔化すための行為だ。
そこに好きとか愛情とかは存在しない。
それでも断れないのは…俺の弱さだ。
いつまで経っても影山への想いを諦めきれずにだらだらと断れないでいる。
「ほんと…バカだよな。俺。」
「え?今更じゃね?」
「ひっど!」
・
・
・
部活時間が来て、廊下で影山とばったり会う。
「おう。」
「おー。」
短く挨拶を交わして、特に喋ることもなく体育館へと向かう。
すると、目の前から見覚えのある女子生徒が数人歩いてきた。
そのうちの一人が影山をちらちらと見ながら通り過ぎていく。
あぁ、あれは確か前に影山をかっこいいと言っていた斉藤さんだ。
「なぁ。」
「なんだ。」
「お前のこと好きって言ってた斉藤さん。
かわいいし優しいしすっげーイイ子だぞ!!」
「…」
「折角だし付き合ってみればいいじゃん!!」
何食わぬ顔でそう告げてみる。
すると影山は途端に不機嫌そうな顔で俺を睨んできた。
「俺のこと好きなくせに随分嬉しそうに女すすめてくるな。」
鋭い目つきで睨みつけてくる影山に俺はやれやれと首を振って見せた。
「好きだからだろー。」
「は?」
「好きな人には幸せになってもらいたいじゃん。」
なんて、ウソつき。
彼女が出来れば…捨ててもらえるかなって思ったんだ。
この偽りの関係を自分から切る勇気が無いから。
「好きでもねぇ相手と付き合って幸せになれるわけねぇだろ。」
結果、馬鹿な思いつきで伝えた言葉は見事俺の心を抉って終了した訳だけど。
「まぁ、はやく次に好きな奴作れよな。」
「…」
誤魔化す様な軽口に影山は何も答えなかった。
*
「ねぇ、日向。最近なんかあった?」
部活の休憩中、ごくごくとドリンクを飲んでいると
座っていた俺の隣に山口が並んできた。
「ん?なんで?」
「…なんとなく、としかいいようがないんだけどさ。」
山口って結構鋭いんだなぁなんて、まるで他人事みたいに考える。
あぁ、本当に最近感情が麻痺してきてるのかもしれない。
「あのさ…明日の休みさ、どっか遊びに行かない?」
「遊びに?」
「うん、あ、もちろんツッキーもね!」
その言葉に月島のほうを見ると、わかってるとばかりに手をパタパタ振っている。
やな奴だけど…こいつも山口と一緒だ。心底嫌な奴ではない。
俺の事気にかけてくれてるんだ。
そう思うと…気持ちが緩んだのかぽろりと涙が零れた。
「ひ、日向!?大丈夫!?」
「あ、うん、ごめん…大丈夫。」
ぐしぐしと目元をぬぐってにへらと笑って見せる。
「…俺達でよかったらなんでも話、聞くからね?」
「うん。ありがと。月島にも言っといて。明日、遊ぼうぜって。」
「うん!」
「俺ゲーセンいきたい!」
「いいね。あ、ツッキーはクレーンゲーム得意なんだぜ!」
「マジか!」
久々に…ちゃんと笑った気がした。
信じられる仲間。これから3年間一緒にバレーをやっていく仲間。
俺は次の休みに山口と月島に影山との事を話すと決めた。
そのとき、影山がこっちを見ているとは気付かずに。