高校は俺と同じ烏野に通うんだ、と言っていてそうして真新しい学ランに手を通すこととなった。昔から変わっていない学ランに飛雄は俺をグリン、と振り返ってまた入学式には来いよ!と言って帰っていった。オレはもう社会人で平日はもちろんのこと、忙しい。遅くなるけれどケーキでも買って帰ってやろう、と決め込んでなんとか定時で帰れるように仕事をしてお酒の席の誘いも断った。すごい行きたかったけど。大学時代もそうだけど、いつの間にかオレが酔っ払ったら迎えにくるのは飛雄の役目になっていてその広い背中におんぶされて帰るのはとても心地よかった。
「飛雄、ごめんな、仕事で行けなかったからケーキ買ってきた」
「・・・おう」
「飛雄が烏野かー、オレの後輩だな!」
「おう。烏野でもバレーは続けるから、試合は見に来いよ」
「見に行けたらな」
約束の通り、オレは何回か有給を使って試合を見に行った。いいセッターに成長していて綺麗なトスのフォームとボール回しは目を見張るものがあった。もうちょっと年齢差がなかったら飛雄のトスが打てたのに。試合終了後の汗だくの飛雄にスポーツドリンクとタオルの差し入れをしてビックリさせよう。案の定ビックリしている飛雄の頭を撫でておめでとうと言えばオレの手を握ったまましばらくは離さなかった。高校に入ってからさらに伸びた飛雄は180cmを越えた。
進級した頃には190cm近くにまで伸びていて道理で見上げるのが辛いわけだ、と思った。160cmは行っていないものの仕事で少しヒールのあるものを履いているし、周りもせいぜい170cm代がいるくらいでこれだけ見上げる飛雄は特別だった。時々、オレのために屈んでくれたり、片膝をついて少し低い目線にドキドキする。オレが沢山のアプローチを受けても了承しないのは飛雄の存在があるからだ。オレのためにいろいろしてくれることが嬉しくて、昔のように摘んできた花をくれるのが嬉しくって未だに彼氏はできたことがない。
卒業するころには190cmにまで伸びていてクラスを含む周りの生徒より頭が一個半も抜きん出ていた。オレンジ色のふわふわした髪の毛も見えてオレは夏に手を振る。途端に笑顔を見せる夏にオレも思わず笑顔が漏れる。こちらを見ていた飛雄にも手を振ってやれば照れくさそうに目線を前に戻した。かわいいやつ。
「翔陽!」
「飛雄、卒業おめでとう。」
「あ、ありがとう。」
クラス会があるから、と夏は仲のいい友達と出かけていった。やはりクラスのみんなと離れるのは惜しいらしく帰り道には誰もいない。隣に立って歩くといかに飛雄が成長したのかが分かる。バレーで鍛えられ高校に入ってからさらに筋肉で厚みが増した。それに伴って身長も伸びた。大きな手にキリッとした表情。ラブレターをもらったこともあるらしいのだがどれも断っているのを夏から聞いた。恋人がいるから、って言ってたよ、と夏から言われた時は思わず赤面してしまった。
「翔陽、」
「なんだよ、飛雄」
「俺、18歳になった。15年待った。だから結婚してほしい」
「!?」
え、こいつガチだったの!?いつ飽きるんだろう、とかって思ってたのに!結婚!?と脳内はパニックだったがどこか冷静で飛雄のプロポーズを予想していたオレもいて、快諾した。
「うん。俺と結婚して、飛雄」
「い、いいのか」
「うん。俺を飛雄のお嫁さんにして?」
「っ!!!!」
ぎゅううううと力いっぱい抱きしめられて苦しかったけれど嬉しいのも本当で、誰もいない帰り道で勢いに任せてキスをしてしまった。オレの両親に言わせればいつ飛雄くんのお嫁さんになるのかなーって待ち遠しかったわーとあっけらかんと言っていて、おばさんもこんな可愛いお嫁さんなら大歓迎だわ、と快く迎えられた。夏は最後まで不貞腐れていたけど、でも嬉しそうに笑って俺を送り出してくれた。