初めて飛雄に会ったのはオレが8歳の時だった。お隣の影山さんの家に男の子が生まれて退院してきた日だった。影山のお父さんはお仕事でいなくて代わりにオレのお母さんが影山のお母さんとその赤ちゃんを迎えに行くことになった。妹の夏もいて、ベビーシートに乗せてオレもチャイルドシートに座って病院に向かった。薄いピンク色の壁紙で可愛いポスターやシールがあちこちにあってかなり印象が違う!とお母さんに何で?と聞いたのも覚えている。

「日向さんありがとうねえ、夏ちゃん生まれたばかりで忙しいのに」
「いいえー困ったときはお互い様でしょう?夏が生まれたときにいろいろ手伝ってくれたから、そのお返しよー」
「影山のおばちゃん、赤ちゃん見てもいい?」
「いいわよ、おいで翔陽ちゃん」

病院のベッドに乗り込んで腕の中を除けば黒髪の赤ちゃんがいて、何だか眉間に皺が寄っていた。夏の時は違かったのに。夏は元気いっぱいで、手足をばたつかせて気持ちよさそうに寝ていたのに。なんでだろう、と眉間のしわを無くそうと指を伸ばす。きゅっと握られた手はとても小さくて、暖かった。車に乗って、家に着いても指が離れなかったのは困ったけど。おばさんも困ったわねえとしょうがないからとオレたちを招いてくれた。抱かせてもらったけど怖くてオレはカチカチに固まっていた。その様子の写真を見ても体がガチガチに固まっている様子がこちらにまで伝わってくるくらいだ。でも、不思議と嫌ではなく何度も何度も影山さんの家にお邪魔した。

「おばさーん!お邪魔していーですか?」
「またきたのね、翔陽ちゃん。丁度寝る前なのよ」

腕の中でぐずっているのかおばさんは疲れたような顔でオレを出迎えた。何度かこうしてお邪魔しているうちにお昼寝前の寝かしつけ係りはオレになっていた。オレも抱っこの仕方のコツが分かって首も支えながら抱っこすることができるようになっていた。家でも夏がいるから練習しているというのもあるけれど、飛雄は夏とは違いあまり動かないから抱っこしやすい。リビングの端っこの小さな布団に寝かせてオレ隣でゴロンと寝転がる。寝返りが打てるようになった飛雄は俺が隣にくるとコロンと寝返って俺に抱きつく。そうしてタオルケットをかけてやって飛雄が寝るまで待つ。オレも釣られてうとうとと微睡むけれどその頃にオレのお母さんが迎えにくる。小学校が夏休みだけどお母さんは働きに出ている。大人って大変なのな。