中学はバレーボールの強いところに行く、と言って北川第一に通うこととなった。そこでセッターになる!と意気込んでいた。だけど先輩にすごく強い人が教えてもらおうとすると教えてくれない、と拗ねて帰ってくることが多かったから一緒にオーバートスの練習などをした。それだけで嬉しそうに目元を赤くして、目線を反らせながらもありがとうという姿は何かをくすぐらせる。なんだかんだ飛雄に付き合ってやるオレも大概だよなーと思いながら湯船に浸かる。もう一緒にお風呂に入ることもなくなったし、夏も入れて3人で寝ることもなくなった。中1になった飛雄はもう170cmを越えたらしく、嬉しそうに学校の健康診断書をオレに見せてくれた。160cmに届かなかったオレは飛雄に身長分けろ、と何度も思ったけれどあいつは俺を見下ろす時に嬉しそうな顔をするから、このままでもいいか、と思えてしまう。湯船に浸かった自分の体を見下ろす。3人で一緒にお風呂に入っていたころとは違って出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ、とは思う。例えばあいつはこれによ、欲情とかしちゃうのだろうか。一気に自分の体温が上がるのを感じでお風呂から出る。ブオオオオオと髪の毛を適当にドライヤーで乾かす。強い天然パーマは乾けばさらにくるくる、ふわふわといろんな方向を向き始める。飛雄はこれが好きなようでよく頭を撫でられてはふわふわと髪の毛を触っていく。
「翔陽ー?スイカ切ったから食べるー?」
「食べるー!」
「こら、落ち着きなさい!」
「はあい」
ドタドタと廊下を走ればお母さんに怒られてしまった。夏も呼びに行ったらしくスイカはテーブルの上に置かれていた。そうしているとまた怒るお母さんの声が聞こえた。さすが姉妹、似た者同士だ。怒られちゃったね、と二人で舌をペロリと出し合う。瑞々しいスイカをしゃくしゃくと二人で食べる。笑い声のテレビと同じくらいの音量で蝉の鳴き声が聞こえる。今年も夏が来る。
大学生の夏は長くて暇だ。飛雄が誘うのでバレーボール部の練習を見に行く。見に行ったらバレーボールしたくなるから、とスカートを履いていく。ついでにおばさんに頼まれたお弁当を持っていく。飛雄がオレがくるから、とわざと置いていったらしく、ごめんなさいねえ、と申し訳なさそうにするおばさんにいいですよ、と言って持っていく。きっとこのお弁当がなかったらもうちょっと遅くに行っていただろう。その分だけそわそわする飛雄が思い浮かんだ。中学の時から使っている自転車に乗って北川第一まで向かう。きいきい音を立てる自転車に油を差してやらないとなーと思いながら校舎に入り込む。バレーボール特有の音にわくわくとしながらも体育館を覗き込む。ちょうど休憩中らしく、あちこちに座り込んでいる生徒たちが多く見えた。
「翔陽、来たんだな」
「うん。わざとお弁当置いていったんだって?」
「そうじゃないと夕方頃来るだろ、お前」
「うわあ、お見通しされてる!」
「当たり前だ、何年恋人してると思ってる」
「えっとー4年?」
「もうすぐ5年目だ」
お弁当を渡して体育館の中について行く。監督さんに挨拶して少し見学する。お昼のあとに帰りますので、と言えば今日は夕方ごろに終わるからそれまで見ていったらどうだ、と提案される。隣にいる飛雄がそわそわとしているのでじゃあ最後まで観ます、と言えば嬉しそうにしている飛雄の空気が伝わる。ホントに現金だな、こいつ。
体育館裏でお弁当を食べながら俺も少し分けてもらう。飛雄には悪いけどこっちだってお腹すいているのだ。飛雄の休憩に付き合っていると何やら指先をちまちまとさせて作業しているのが伺える。何してんだろう、と思っていると飛雄はこちらに向き直った。
「左手、出せ」
「え?左手?」
「おう」
「はい」
「・・・これ、結婚の約束な」
シロツメクサが指輪のように作られていて3つほど並んでいる。こんなのできたんだな、飛雄。顔を真っ赤にさせている飛雄の綺麗な丸い頭を撫でてやれば嬉しそうに目元をさらに赤くさせる。騒がしくなってきた体育館の音にオレは飛雄を体育館に向かわせる。未だに指輪をつけたままオレは最後まで見て一緒に帰った。この指輪はあの時のたんぽぽと同じように押し花にした。