飛雄が喋りだして保育園に入ったのは2歳の頃でオレは小4に上がっていた。クリスマスの近くに生まれた飛雄のために何をプレゼントしようと自分の布団の上でうーんうーんと悩む。夏も隣で真似して、うーんうーんと言っていたけど面白くなってしまってそれどころではなくなってしまった。しょうがないから『一緒に遊んでやる券』を5枚綴りでプレゼントした。すごい喜んでくれたけれど4枚しか使われず残りの一枚は使われず仕舞だった。どこにいったんだろう。飛雄が3歳になったころ一回だけ泣きながら俺の帰りを待っていたみたいで、俺が家のリビングに勢いよく入っていくと抱きついて離れなかった。
「グズッ、しょーよー」
「はいはい、どうしたんだよ、飛雄」
「しょーよーのことかわいくないって、けいが」
「何お前、オレのことみんなに言ってるの?」
「うん」
「そっかそっかー」
撫でてやれば少し泣き止んだのか目元を赤く腫らしながらも懸命に抱きついてくる。影山のおばさんが迎えに来てもオレから離れなくてしょうがないからお泊まりとなった。夏と飛雄の3人でお風呂に入って、順番に洗ってやる。オレに似た夏のふわふわの髪の毛を優しく洗ってやる。そして飛雄のさらさらで綺麗な黒髪を丁寧に洗う。艶々と電気に反射しているキューティクルが羨ましい。泡まみれが面白いのか3人で散々遊んでいたらお母さんに怒られた。綺麗に拭いてからパジャマを着せる。飛雄はズボンも履いてボタンも自分で留めていた。一個ずつずれているけど。直してやって、3人並んで寝る。飛雄は昔のようにオレに抱きついて寝ていた。起きた時に夏が騒いでいたけど。
「あたしのねーちゃんなの!」
「しょーよーは俺のだ!」
「違うもん!」
「夏が違うんだ!」
言い合っている二人をなんとか宥めて学校に向かう。ランドセルを背負った時の二人の寂しそうな表情はとてもそっくりで思わず笑ってしまった。
飛雄が5歳になって段々行動も言動もませてんなーと思っていた時だった。ちなみに俺の小学校の卒業式にも中学の入学式にも飛雄はやってきた。夏と言い合っていてオレは静かにできないなら追い出すぞ、と注意した。そうしたらピタッと静かに椅子に座っている二人は面白かった。学校からの帰り、飛雄は俺の家の前で座って待っていた。なんだろう、また保育園で何かあったのだろうか。
「どうしたんだ、飛雄」
「しょーよー!おかーり!」
「おう、ただいま。また保育園で何かあったのか?」
「ちがう!」
「じゃあなんだ?」
「しょーよー!おれがおっきくなったらけっこんしてやるよ!」
なんだこいつかわいい。握りしめていたせいで少し萎れているたんぽぽの花は少し下を向いてしまっている。水に入れれば復活するかなーと思いながら萎れたたんぽぽを受け取る。最近の子どもはませてるんだなーと思いながらぜったいだからな、しょーよーと言っている飛雄にうんうん、と相槌を打てば満足したのか自分の家に向かってオレにまたな!と元気に消えて行った。とりあえず水に入れよう。たんぽぽは1日くらいで復活したがこのままでは枯れてしまう。お母さんにどうすればいいか聞いたら押し花にしたらどうか、というので押し花にしてもらった。