休日。


余裕を持って起床し、ゆっくりと支度をした僕は
最後にくせっ毛気味の髪にかるく手ぐしを入れて家をでる。





【Wデートは計画的に】





「山口。」

「あ!おはようツッキー!」



待ち合わせ場所にいた人影に声をかけると
僕をにっこりと笑顔で出迎える。



「デート久々だね!」

「あんまり外でデートとか口にしないの。」

「ごめんツッキー!」



謝って見せてはいるが、この口調は対して悪いと思っていないだろう。

山口が一日で一番よく口にする
"ごめんね、ツッキー"という言葉。

そのトーンで、山口の反省具合まで分かってしまう自分がなんだか複雑でもある。


けれど…


「でもツッキーと一緒に出掛けられて嬉しい。」


山口が一番よく口にする言葉が僕の名前ってことが
やはり恋人としては嬉しいのだ。


「日向と影山ももう来てるかなぁ。」

「あの2人の事だから、どっちが先につくかって
 競い合って早く来てそうじゃない?」

「あぁ、あり得る。」



坂道を競い合いながら走ってくる2人が容易に目に浮かんでやれやれと呆れる。
願わくば僕らが着くまでには落ち着いていてくれることを願う。




そう、今日は日向と王様、そして僕と山口で
いわゆるWデートの予定を立てているのだ。



事の発端は少し前の部活終わりの出来事。

すでに部活全体に広まっていると思い込んでいた
日向と王様の関係を、何故か田中さんだけが知らずに
ちょっとした騒ぎになったのだけど

田中さんにその関係を暴露するきっかけになったのが
日向達のデートの計画話だったのだ。



駅前に美味しいスイーツバイキングが出来たので
そこに行こうという会話だったらしいのだけれど

田中さんが語るには、『あれで会話が通じるところがおかしい』そうだ。

どうせいつも通り感覚だけで話していたんだろうけど…




まぁ、それはさておき。
スイーツと聞かされるとちょっと気になってしまう僕がいる訳で。

そして、しっかりそれは山口に見抜かれており、
この際Wデートをしようという話になった。


まぁ、男2人でスイーツバイキングは好奇の目を誘う。
しかし4人なら高校生の馬鹿なノリだと周囲も思うだろう…なんて
僕としては打算的な考えだったんだけど、

バカ2人はWデートという響きに乗せられただけだと思う。





「あれ?まだ来てない?」

「みたいだね。」




そんな事を考えながら日向達との待ち合わせ場所についたんだけど
2人の姿はまだどこにもない。


「もうすぐ時間だけど…何かあったのかな?」


不安そうな山口が坂の方を心配そうに見つめた瞬間、



「「うおおおおおおおおおお!!!!」」


「…」

「…」



僕の嫌な予感は半分的中してしまった。



「ぜぇっ…はっ…俺の、勝ちだ…!」

「ボゲェ!どう、見ても俺の勝ちだろっ!」





「…」

「…」



「おお、月島!山口!うーっす!」

「うっす。」



どうしよう、今すぐ他人のフリしたい。









「うんまぁ!!!これうまっ!」

「日向、もう少し声のトーン落とそうね?」


「あ、ごめん!でもこれ超うまい!超やばい!」

「そんなにか?」


「おう!一口やろうか?ほい。あーん。」

「あー…んぐ。確かに。」



「…」



どうしよう、僕のもくろみ完全に外れてる。

男子高校生の悪ノリ的な印象を与えるはずが
完全に目の前の2人がいちゃつきまくってる。

大体バイキングなんだから、食べたきゃ自分の分とってきなよ!
あと山口、若干羨ましそうに見ないで。やらないから。

ホモ1組と男子高校生2人からホモ2組に分類されたくないでしょ。




「影山のそれもうまそう…」

「自分で取って来いよ。」


「えー…」

「ちっ。仕方ねぇな。ほれ。」

「はむっ…んおおお!これもうまぁああ!!」


「日向、声、ね?抑えようね?」



もうやだ。ケーキの味がわからない。
大好きなショートケーキが砂のように感じる。


打算もあったけど、ケーキも食べたかったけど、
王様がちゃんと恋人出来てるかな…なんて気にかけてやった僕が馬鹿だったよ。



「…今からでも店員に席を変えてもらおう。
 まだ山口と2人で来てると思われた方がマシだ。」

「ツッキー落ち着いて!今から移っても多分一緒!!」


わなわなと震える僕を山口が宥めてくれるが
もはやそれすら…




"麗しきホモよ!!"

"あざっす!超美味いっす!!"

"あの眼鏡君は攻めと見せかけて受けと見た!
 そばかす君って夜は強気タイプなんじゃない!?"

"向こうは…王道カプね!小っちゃい子が受けで
となりの黒髪君が攻めに決まってるわ!"




「…」

「ツッキィィィィイイイ!!」


「「どうした月島?」」



僕は人生で初めて愛するいちごショートを叩き潰しそうになった。










「はぁ、食った食った!」

「たまにはケーキもいいな。」


「…」

「ツッキーしっかりぃ!!!」



「月島って甘党な割にはあんまり食わないのな?」



お前らのせいだ。

しかし反論する気力も根こそぎ持っていかれた僕は
もはやがっくりとうなだれていた。



「もう、2人とも。楽しいのは分かるけどもう少し自重して!
 ツッキーが死んじゃう!」


だけど…


「へ?月島具合が悪いのか!?大丈夫か!?」

「薬とか、買ってくるか?近くに薬局あったよな。」



これだから…憎み切れないんだよこのバカ2人。



「平気。王様が家来の心配するなんて今から雨降るんじゃない?」

「あん?」


「こら、影山!怒っちゃだめだろ!デートなんだから!」

「…わーったよ。」




「    」

「ツッキー息して!息!!!!」




なんで僕はこいつらの心配なんかしちゃったんだろう。
むしろなんでくっつくように手助けしたんだろう。

少し前の自分をぶん殴ってやりたい。




「で、これからどうするんだよ?」

「んー、そうだなぁ。」



そんな僕の気も知らずに、次の予定地を決める2人。
いっそここで別れた方が僕の精神衛生上いいと思う。

うん、そうしよう。
山口連れて帰ってこのささくれ立った気持ちを癒して…



「そうだ!ゲーセン行こうぜ!
 月島クレーンゲーム超得意なんだぜ!」

「…なんでそんなこと知ってんだよ。」


「前に3人で遊んだ時に景品いっぱい獲ってもらった!」

「…月島、勝負だテメェ。」



なんで今更僕をライバル視してんの。
僕には山口がいるって知ってるでしょ。馬鹿なの?あぁ馬鹿だったね。







「おおお!!影山もすげぇな!!!」

「こんなのコートのどこにボールを叩き込むかと一緒だろ。」


クレーンゲームの前。
王様は自分の姫君に景品を次々と獲っている。


そして僕に挑発的な視線を向けてくる。その様はまさにドヤ顔。
いつも怒ってる顔がデフォのくせになんなのその顔。



「その程度で勝ったと思わないでよね…」



先程までの怒りがプラスして僕に変なスイッチが入った。



「山口、どれが欲しい?なんでも獲ってあげる。」

「え?あ、うーんと…じゃあ…」



山口はクレーンゲームの中を覗き込んで少し考えた後、
おずおずと聞いてきた。



「アレとか…獲れる?」



それは少し他のに埋もれ気味の景品。
けれどそんなことは問題じゃない。


「あれね。了解。」



確かに一発では落とせない。けど難しくもなんともない。
僕は500円玉を投入すると、さくっと2回でその景品を落とした。



「ツッキーすごい!!」

「月島すげえええ!!!今のすげえええ!!!」


「俺だってあれくらい獲れるぞ!」

「何張り合ってんだよ影山ぁ。」



王様が張り合ってるのは十中八九君のせいなんだけど。
とは言え、挑んでくるなら打ち負かす。


生憎とここはバレーのコートじゃないんだよ。





「山口、次は?」

「えっと…じゃあアレ!」


「ん。」




「月島すっげぇ!!!2個いっぺんに落ちた!!!
 うおおおおお!!!」

「さすがツッキー!!惚れ直す!!」


「くそ、日向!お前も欲しいの言え!」

「え、あー…じゃあアレ!」



「もう面倒だからこのシリーズ全部取っちゃおうか。」

「やだツッキーかっこ良すぎ抱いて!」



「くっそ!」

「あらら、王様ってば失敗?」


「今のは手が滑っただけだ!」

「ふーん、手がねぇ。」


「てんめぇ月島、日向に褒められたからっていい気になんなよ!」


「え、ツッキーそうだったの!?」

「馬鹿なの山口。」


「ごめんねツッキー!」



「この菓子うんめぇー。」








「どうすんのさコレ。」

「4人で分けて持ち帰るしかないデショ。」


結局、ゲームセンターを出るころには
4人共の両手にいっぱいのお菓子やらぬいぐるみ。



「最後は店員さんが泣きそうな顔で見てたな。
 もうここ出禁になるんじゃね?」


ケタケタと笑う日向に山口も頷く。


「周りにギャラリーすごかったしね!さすがツッキー!」

「影山だってすごかったぞ!な!」


「…おう。」


日向に褒められて嬉しいのは分かるけど、王様その笑顔怖いよ。






「はぁ、それにしても楽しかった!」


夕陽が僕達を照らす中、日向が嬉しそうに笑う。
それを見た王様はむずがゆそうな表情をしていた。


「最初はどうなることかと思ったけどね。」

「「ん?」」


まったく自覚のない2人にため息がでる。



「まぁ…君らが順調そうでよかったよ。」

「月島…妙なもんでも食ったか?」

「…薬買ってくるか?」



「うん、今の言葉撤回する。」

「あはは。」


台無しにしてくれた2人から顔を背けると
山口もまた楽しそうに笑った。



「これでも2人の事心配してたんだよ?
 影山がちゃんと日向を大事に出来てるのか、
 日向は自分の想いを押し殺したりしてないか。ね、ツッキー。」

「…ふん。」



山口の言葉に2人はきょとんとして…同時に顔を真っ赤にした。



「なんつーか、その…ありがとな。」

「…お前らには感謝してる。」



そんな言葉に今度は僕達がきょとんとする番で…
数秒後には全員が笑っていた。




めちゃくちゃに疲れたし、イライラもしたけれど
こんな日も…たまには悪くないかもしれない。




*END*