どうも。烏野高校2年生。
排球部次期エースで超絶イケてる田中龍之介でぇっす!!
高校時代の青春を只ひたすらバレーと
愛する美人マネージャー・潔子さんに注いでいる俺な訳だが
最近、どうにも気になる事がある。それは…
「あ、龍あぶねーぞ?」
ギュルルルルルルバッコォオオオオン!!!!
「んぎゃあああああ!!!」
かっこよく思案中の俺の頭にものすごい速度で飛来したボール。
俺の頭は瞬時に推理を始めた。
この威力が出せるスパイカーは2人に絞られる。
もちろん影山のサーブである可能性も高い。
しかし今はスパイク練の最中。
つまり、これは1年の日向か3年の旭さんのボールだ。
「おーい、だいじょぶか?」
そして仮に旭さんだとしたら俺に当たった瞬間悲鳴をあげているはずだ。
あの人、気弱いから。
「田中ー?生きてるかー?」
となると可能性は一つ。
「てんめぇ…日向ぁあああ!!!!」
「ぴぃぃいいい!!!」
体育館の床とこんにちわしてた体勢から勢いよく起き上がり
弾道の先を睨みつければやはりそこには日向の姿。
完全に白目向いて震えている。
そう、旭さんなら真っ先に悲鳴を上げる、気が弱いから。
しかしそれ以上に気の弱い日向なら無言で震えているというのが
俺のかんっぺきな推理だった。
「こら、田中。お前もぼーっとしてたんだからおあいこだ!」
「スガさんは日向に甘過ぎっすよ!それに…」
「うっ…田中さんに殺されるコロサレル殺される…」
「ボゲェ。この程度で殺されるか。泣くな。今日自主練で
トスいっぱいあげてやるから。」
「ほんとっ!?ほんとっ!?」
俺の視線の先、泣きが入った日向をなんとまぁ、
あの影山が、あの影山が慰めている。しかも若干笑顔で。
「影山も最近日向に甘くないっすか!?」
そう!!それこそが俺が最近気になっていて、
さっきボールが当たる前にかっこよく思案していた内容だった。
「え?あ、あぁ。そうかも、なぁ。
影山も丸くなったんだろうなぁ。」
俺の追及に、スガさんはいつものふわふわとした笑顔で答える。
しかし心なしか言葉がドモってる。怪しい。
「スガさぁーん?なんか知ってんすか?訳知りっすか?ふむふむっすか?」
「ちょ、近い!田中近い!」
どうにも怪しいスガさんに
ぐいぐい迫って話を聞きだそうとしていたのだが…
「田中ー?何してるんだー?」
背後からのどす黒い気配に強烈なオカン…じゃなくて悪寒が走る。
「あ、大地。」
「…」
振り向けない。振り向くの怖い。振り向いたら死ぬ。
そう思った矢先にガッと頭に走る衝撃。
あ、これ俺頭掴まれてる。ボールみたいに掴まれてる。
「スパイク練は終わったのかな?」
「ま、まだです。」
「じゃあ何をしているんだ?」
「え、えっとぉ…」
「ん?答えなさい?田中。」
あぁ、これが覇気ってやつか。
やっぱ大地さんってハンパねぇぜ。
これが怖さのあまり、気を失う俺が考えた言葉でした。
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気絶から目を覚ますと、何故かスガさんから謝られて
大地さんの頭にはたんこぶが出来ていて。
何が何やら分からなくなったけれど、とりあえず
これ以上大地さんを怒らせたくなかったので真面目に部活に取り組んだ。
そして部活終了後。
「なー、影山ぁ。」
「ん?」
「今度あれ行きてぇ。」
「あれじゃわかんねぇよ。」
「駅前の。」
「…あぁ、あれか。」
「そう、あれ。」
「じゃあ次の休みな。」
「おう!!じゃあ約束のトス!トスあげて!」
「ちったぁ落ち着け日向ボゲェ。」
なんだろう、あの会話は。
「な、なぁ、ノヤっさんよぉ。」
「なんだ?」
「今の影山と日向の会話…」
「ん?それがどうした?」
「なんつーかこう…変じゃね?」
「んん?」
ノヤっさんは俺の問いかけに対して首をかしげるばかり。
なんてこった。やはり俺しか気付いていないのか!
他の面々も特に気にする素振りもなく各々が
自主練体制に入ったりしている。
やはり…これは俺が解決するしかないのか…
そう、この『烏野排球部王様とシモベの仲良し事件』を!!!
あの2人は…それはもう烏野排球部の中で1、2を争う不仲っぷりだった。
そのお蔭であいつらの入部早々俺がどれだけ苦労させられたことか…
最近では確かにお互いを認め合ってうまく連携出来始めてたな、
なんて思っていたものだ。先輩としても一安心。
しかぁし!!!
最近のあの2人は可笑しい。
その変化が現れたのは…そう2か月前くらいだっただろうか。
影山が体調を崩し部活を休み、その翌日に日向が学校を休んだ。
その辺りからあの2人の関係性…っつーのが、そう変わり始めた気がする。
とはいっても最初の1か月はそんなに仲がいいとは言えず、
むしろ日向の不調期が続いたりした。
けれどその次の1か月からはもう今の調子だ。
今までバレー以外では水と油だったあいつらが妙に距離が近い。
休憩中もなんか並んで座ってたりする。
日向がコミュ力高めなのは知っていたが
なぜか影山のほうから日向にくだらないちょっかいを出したりしている。
これが事件と呼ばずしてなんとするか!
俺の名探偵魂が火を噴いた。
こうなれば絶対あいつらの変化の原因を暴いて見せるぜぇ!!!
と、意気込んでいた時期が俺にもありました。
「え?今、なんて…」
「だから、さっきの話だよ。あれデートの相談だろ?
それのどこが変なんだよ。」
「…デート?」
ノヤっさんの発言が俺には理解できない。
デートと言うものは、俺のようなナイスガイと潔子さんのような女神がするものだ。
断じて同じチームメイトの男同士でするものではない。
「な、何言ってんだ?ノヤっさん…」
「お前こそ何言ってんだ龍?」
しばしノヤっさんと見つめ合う俺。
ノヤっさんのでっかい目はきょとんとしている。
「だ、だから…日向と影山がデートって…冗談だろ?」
「なんで?」
「え、いや、何でって…」
困惑する俺に、同じく困惑するノヤっさん。
いや、なんでお前が困惑してんだ!
「…おーい!翔陽!影山!!」
「はーい?」
「なんすか?」
そして俺が困惑している間にノヤっさんは当事者2人を呼び寄せた。
おい、待て。まだ俺の推理が終わってねぇ。
事件はまだ解決…
「お前らのさっきの駅前どうこうってあれデートの約束だろ?」
「そうっすけど?」
「お、おい影山。あっさりデートとか認めんな恥ずかしい…」
ドウイウコトナノ。
「な?」
な、じゃねぇよ!なんだその笑顔!
「それがどうかしたんすか?」
「いや、龍がなんか影山達が変だとか言ってさ。」
「え?俺達なんか変でしたか?」
「何も変な事した覚えはねぇけど…」
焦る日向と悩む影山。
いや、俺が焦りたいし悩みたい。
仮に、だ。
仮にこの2人がデートをするような間柄だとしよう。
それを…
「何でノヤっさんが知ってんだ!?」
「え?だって翔陽達から聞いたしな。」
はい?
「え?つか龍…知らなかったの?」
ぱーどぅん?
「そういえば…あの時田中さんだけいなかった気が…」
「そうだっけ?」
もう名探偵の脳は処理力がゼロと化していた。
聞けば、影山と日向は1か月前から付き合っているらしい。
それが部内に広まったのは1年生4人の会話からで
どうやら相談に乗っていたらしい月島と山口に報告している際に
偶然通りかかったノヤっさんと旭さんがその話を耳にしてしまう。
そして旭さんが驚いた時の叫び声で木下、成田、縁下まで集まってしまい
結局部員ほぼ全員に知れ渡ることになったんだそうだ。
ちなみにスガさんと大地さんは先に知っていたという。
なにそれ。なんで俺そこにいなかったの?
そしてなんで誰も俺の不在に気付いてくれなかったの?
しかもさらに驚きの事実が判明した。
なんと大地さんとスガさん、そして月島と山口も
恋人同士で付き合っているというのだ。
日向達だけバレるのは可哀想だと思い、各々がカミングアウトしたらしい。
だからなんでそれが今日まで俺に伝わってないの…?
「ってことだ!」
「…」
「田中さん…あの、気持ち悪いとか…思いますか?」
完全に燃え尽きている俺に、日向がおずおずと尋ねてくる。
そりゃいきなり部内にヤローのカップルが3組もいたなんて
話を聞かされれば驚くさ。しかも俺だけ知らないとか泣けてくる。
けど…
「別に気持ち悪いなんて思わねェよ。
どんな経緯があったかは知らんが…お前らはお互い好きなんだろ?」
「はい!」「うっす!」
「ならその気持ちを否定したりしねーっつーの。」
「田中さんっ…!」
俺の言葉に日向の顔がぱぁっと明るくなる。
まったく…この後輩達には脅かされることばかりだ。
けど、まぁこいつらが幸せならそれでいいかと思ってしまうあたり
俺も大概甘い先輩なのだろう。
「けど俺に話してなかった罰だ!こうしてやるっ!」
「うぉわっ!」
目の前にいた日向の髪を思い切りぐしゃぐしゃに掻き回してやると
きゃっきゃとはしゃぐ声がする。まったく可愛い後輩…
「田中さん…それ、俺のなんですけど。」
可愛い後輩の背後から、恐ろしい後輩の顔が突き出ていた。
あぁ、こういうのデジャブっていうんだっけ…?
これが怖さのあまり、本日2度目、気を失う俺が考えた言葉でした。
*END*