*そらと様より、『悲しみの中でヒマワリの花は咲く』の後日談を頂きました! 嬉しい!!

*お話の流れ上、R-15ほどの表現がございます。苦手な方はお気を付けください

「…」

「おい。」


「…」

「おい、コラ。」


「…」

「日向ボゲェエ!!」

「ひぃっ!!」




【声出す出さない戦争】





恐ろしい影山の怒鳴り声が響き渡ったのは
学校の教室でも、部活中の体育館でもない。

両親不在の影山の家、そして影山の部屋のベッドの上だ。




「てめえ、約束が違うだろ。」

「っ…」



怒鳴り声で分かるように、今、俺の目の前にいる影山飛雄さんは
大変お怒りでいらっしゃいます。

何故?
またあの王様による独裁国家が始まったの?

みなさんはそう思うでしょう。しかし、それは違うのです。






「何遠い目してブツブツ呟いてんだ。」

「はっ!!」



いつの間にか声が出ていたようだ。



「それとも、他の事考えるくらい…余裕あんのかよ?」

「っ…!」



べろりと首筋を舐めあげられてびくりと震える。
そう…今、俺と影山は…その、抱き合っている真っ最中な訳です。

そしてお怒りの理由もそこにある訳で…



「この間約束したよな?声我慢すんなって。」

「う…」


「忘れたなんていわせねぇから。」

「そ、それは…そのぉ…」




俺と影山は現在、恋人として付き合っている。

しかし恋人と言う関係になる前にちょっと色々あって
身体だけ先に重ねるという、今思えば馬鹿な行為を行っていた。



影山に好きな相手がいて、でもその人にフラれて…
そんな影山を慰めるために俺が自分の身体を差し出したのだ。



もちろん、それが間違っている事はわかってたし、
遠慮も配慮もあったもんじゃない影山の行為に俺の身体は悲鳴をあげた。

初めての時中に出されて、家に帰った後盛大に腹を下した事も
俺の黒歴史メモリーにしっかりと刻まれている。



しかもそれは1度では終わらず、影山との身体の関係はずるずると
一ヶ月以上も続いてしまった。一応平日は1度だけにしてくれたけど
休みの前の日には明け方まで行為が続く事もあった。



そんな中、俺は一つ絶対に決めていたことがある。



影山に抱かれている間、一切声を出さない事。



それが身代わりとして抱かれる俺が自分で決めたルールだった。

影山は俺を求めて俺を抱いている訳じゃない。
好きな人を思い浮かべて、同じ男である俺の身体を利用している。

だから、俺が声を出してしまえば嫌でも"日向翔陽"という存在を
影山が意識してしまうと思ったからだ。



どれだけ乱暴に抱かれたって、好きな相手に触れられるのは幸せには違いなくて
間違いなく俺の身体は反応してしまう。


だから最初の内は声を出さない事が本当に辛くて辛くて
頭が狂ってしまいそうだった。

影山、と…その名を呼べたなら…好きだと泣き叫んでしまえたら…
どれだけ楽だろうと。



しかし、その都度俺は必死で思い出していた。
影山が好きなのは菅原さん。俺じゃない。

そう思う事で、涙は零れても声を抑えることは出来たんだ。





しかし…



「いいから声だせっつってんだよ!」

「そ、そんなの強制するもんじゃないだろ!」



そんなこんなで影山に抱かれるときに声を押し殺すのは当たり前になってしまっていて、
いざ恋人になったから、はい声出しますって訳にはいかなかった。



声を堪えていた理由を打ち明けた時
影山は俺を抱きしめて、俺を抱きたいのだと言ってくれた。

その言葉は本当に嬉しかったし、次抱かれるときは
身代わりじゃなくて…俺を抱いてくれるんだと思うと胸が熱くなった。



けど、実際そのタイミングが訪れると…
びっくりするほど俺は無意識に声を抑えてしまっていた。



「…そりゃ、そうだけどよ。」



お互い何も着ていない裸の状態で抱き合ったまま、
なんだか不毛な会話をしている気がする。


「…別に声を出さなくても、俺を抱いている事には変わりねぇだろ?」

「…なんかやだ。」


「やだって…お前が言ってもなんか可愛くねぇよ?」

「うっせぇ!ぶち犯すぞてめぇ!」

「ぴいいい!?」



ぐいっと身体を押し付けられて影山の唇が俺の唇に当たる。

歯がかちんっとぶつかるほどの勢いだったそれは
だんだん優しく深くなって、身体の熱を上げていってしまう。


「っはぁ…」


糸を引きながら離れていく影山はなんかすごくエロい。
そんな事を考えていたんだけど…


「キスした後のお前って…なんかすげぇエロいのな。」


まさか同じような事を考えられているとは思わず、
俺の頭からは湯気が噴き出した。恥ずかしすぎる。



「…もう、いいや。」

「ん?」



恥ずかしさに身悶えていると、影山がいきなり妙にすっきりした顔になる。
そしてゆっくり顔を近づけてきた。

またキスされるのかと思って身構えたけど、影山の唇は顔の横を通り過ぎていく。
そしてたどり着いたのは俺の耳のとこで。



「お前の言うとおり。声だそうが出すまいが今俺が抱いてんのは日向、お前だ。
 だから今のままでいいよ。」

「っ!!」



脳に直接響くような、低く…それでいて甘い声に全身が痺れた。
心臓がバクバク動いて今にも飛び出しそうだ。



「かげ、やま…」

「まぁそのうち我慢できなくなると思うけど。」


そう呟くと、そのまま耳をべろりと舐められて…



「ひゃあんっ…!」







「え?」

「あっ。」





勢いよく口を押える。
まさかの思い切り声が出てしまった。

あり得ない。なんだこの展開。




「なっ…お、俺…っ…」

「…」




「あ、あの…影山さん…?」

「…」




「もしもぉーし。あのーすごく目が据わってて怖いんですけどぉー!」

「…よし。」

「何がよし、なの!?」

「キニスルナ ナンデモナイ」



「明らかにおかしい!!!片言!片言になって…ちょ、待って!」

「待てない。」

「っ…」



「待てるわけ、ないだろ…」

「んぁっ…」


さわりと影山の指が俺の耳を撫でると意図せず声が出る。









「好きだ…日向。」

「かげ、やまぁ…っ」




:
:
:






「なんか…なんかっ!負けた気分っ!」

「声掠れてんぞ。ほれ、水。」


真っ新に取り変えたシーツの上で敗北感に悶えていると
影山が飲んでいたミネラルウォーターのボトルを差し出される。


受け取って喉を潤すが、掠れてしまうほど声を出してしまった事が
今更ながらとても恥ずかしいような気がする。


結局あの後は…自分で思い出すのも耐え難いほどで
本当に影山の家族がいなくてよかったと思った。



でも、ひとつだけ分かったのは、
身代わりとして身体を差し出しているのと、

心から愛されて触れられるのとでは違うという事だ。



指の感触1つだって、前とは違う。
影山の気持ちがそのまま肌にまで伝わるようで
こみ上げてくる切なさすら…幸せだと思った。





「んぐっ。」



とはいえめちゃくちゃ恥ずかしかったので
全部まるごと飲み込んでしまえー!とばかりに残った水を全部飲み干すと
『全部飲むなボゲェ!』って怒られた。




「だってこうなったの影山のせいだもん。」



理不尽に怒られてぶすっと頬を膨らませていると、ふいに影山がこちらを向く。
また怒られるのかと思って反射的に目をつぶってしまうのが情けない。


しかし、いつまで経ってもボゲェ!!という言葉は飛んでこず
かわりに唇のあたりでちゅっと音がした。



「…かげやま?」

「ん?」


「今、なんでちゅーしたの?」

「なんとなく?」



「なんとなくでするもんなの?」

「理由なんていらねーだろ。まぁ、しいて言うなら…」



可愛いなと思ったからしただけだ、なんて
あんまり見ない、気持ち悪くない笑顔で言われてしまって…




ボンッ!!!!


「おい日向っ!?お前なにショートしてんだ!?」


そんなの反則だ。
ショートした頭でぐるぐると考えてしまう。


あぁ、もう大好きだ。影山が好きで好きでたまらない。


「…影山ぁ!!!」

「おわっ!」



がばっと飛びついた衝撃を支えきれずに俺ごとベッドに倒れ込む影山。


「アブねぇだろうがボゲェ!」

「…えへへ。」



今はどれだけ怒られても全然怖くない。
聞きなれたボゲェの声すら甘く聞こえるから不思議だ。



「ったく…なにニヤついてんだ。」


文句をいいながらも俺の頬をむにむにして遊んでいる影山は
どうやら怒ってはいないらしい。



「だって幸せだし。」

「…ぼげぇ。」



より一層気迫の無いボゲェの後にまたちゅぅっと唇が重なる。
あれだけ拒んでいたキスも、恋人となった今では甘いだけだ。



幸せだなぁ。



「日向。」

「ん?」


「俺も幸せだ。」

「影山…」


「こんな俺を…ずっと好きでいてくれてありがとう。」

「っ…」



今そんなことをいうのは…狡いと思う。
そんなこと…お礼を言われるような事じゃなくて…

ただ諦められなかった。それだけなんだ。



「日向が俺を好きになってくれてよかった。」



その言葉に涙が零れる。
俺も。俺もだよ?俺も…


「影山が俺を好きになってくれて…よかった。」

「うん。」



俺よりも全然でっかくて長い指が流れた涙を拭ってくれる。
くすぐったくて…胸の中がほわって温かくなる。



「これからも…ずっと隣にいろ。」

「…偉そう。」


「えらいんだよ。」

「なんだよそれー。」


2人でベッドに転がってくだらない言い合いをして
こんな日々がずっと続いていけばいい。



「好きだ、日向。」

「俺も影山が好き。」







もう何度目かも分からないキスを交わしても、まだまだ朝は遠い。
そのことが酷く幸せに感じられた。



*END*