SIDE 影山飛雄

苛々する。

今日は一体なんだというんだ。


廊下では女を勧めてきたり、部活中には山口とベタベタしたり。
日向の行動が読めない。


しかも、山口といた時に一瞬だけ見えた泣き顔と笑顔。

俺には泣き顔なんて…見せたことない。
笑顔だって…最近はずっと見ていない気がする。




俺のことが好きだと言ったくせに。




「影山。どうかしたのか?」

「いえ…なんでもありません。」


「ならいいんだけど…すごい顔してるぞ?」



菅原さんの声もあまり耳に入らない。
あんなに好きだった菅原さんの声なのに…




『日向ー。次お前の番だぞー』

『うっす!おねがいしやっす!』



田中さんの声に、嬉しそうに応えてボールを追いかける日向。
胸の奥がズキリと痛んだ。










「あのさ、影山。」

「ん。」


「今日はその…いつもより少なめにしてくんね?」




夜。

予定通り、日向を家に連れて行き
しばらくバレーの雑誌なんかを読んだ後、

いつもどおりベッドの上に押し倒すと、日向がそんな事を言った。



「明日休みだろ?それなら別に…」


初めての時のことがあってから、休みの日以外は
出来るだけ1度で済ませるようにしていた。

しかし、明日は休みだ。



「うん、そうなんだけど山口と月島と出かける約束してんだ。」

「…ふーん。」



今日の部活中に話していたのはその事か。
山口はともかく、月島まで。

部活中の泣き顔と笑顔が交互に思い浮かんで無性に苛々した。



このまま…明日動けなくなるまで抱いてしまおうか。




そこまで考えて、ふと我に返る。

何故そんなことをする必要がある。別に日向は俺のものじゃない。
こいつは…俺の失恋を慰めるためにこうしているんだ。



それ以外の時間はどこで誰と何をしていようが関係ない。


そのはずなのに…



俺はゆっくりと日向に顔を近づける。
同時に日向の目が見開かれていく。



「なに…」

「…」



日向の問いかけには答えず、そのまま唇を近づける。







「いやだ。」



ぽつりと小さな声が響いた。


「何が。」

「それ、やめて。」


今までにない、はっきりとした拒絶の色だった。



「ちゅーされたら、諦められなくなるし、勘違いしそうになる。」

「…わかった。」




自分が今何をしようとしていたのか、
よくよく考えれば日向の拒絶はもっともだった。


好きでもない相手にキスをするなんておかしい。
俺が好きなのは…今でも菅原さんだ。



日向の顔に近づけていた唇を離し、代わりにその身体に舌を這わせる。



「っ…」



相変わらず、日向は一言も…声をあげない。