いい加減、新ちゃんはあの糖尿侍から給料を貰うべきだわ。
労働基準法を違反しているじゃないの。
神楽ちゃんだってご飯お腹いっぱい貰えないって、言ってるじゃない。
預かってる自覚もないのかしら?
これはもういっその事、裁判を起こすべきなのよ!!
何時だったろう、そんなことを姉上に言われた事がある。
何でそんな事になったのか、どうしてそんな話になったのかはもう覚えていない。
とりあえず、何故か燃えに燃えて薙刀を出した姉上をなだめて(そもそも僕らの家に裁判を起こすお金なんてある訳がないのだけど)お茶を入れ、姉上が大好きなアイスを口に突っ込み、大人しくなった所で志村家の事件は幕を閉じた。
そういえば、何であんな事になってたんだっけ…?
幸
せ
は
、
湯
気
の
向
こ
う
側
で
。
_ガラララララ…
「銀さーん、神楽ちゃーん……出迎えなしって、もォ、来ましたよォ~?」
木枯らしがぴゅうぴゅうと景気よく吹いて、いい感じに秋っぽくなって来た今日この頃。
どうにもこうにも寒いのは仕方ないが、仕方なくないのは…
「お~銀八ぃ…お茶…あ、いや。しるこのが食いてぇや…今すぐ作って」
「おラ、さっさと抹茶ラテ作るネ、この駄眼鏡。」
「自分で動けよ!!ってか、働けコンチクショォオオォオオォォッ!!」
こいつらだ。
「ったく、ちょっと寒くなったからって、もうコタツ出して。そんな事する暇あったら仕事して下さい、仕事!!」
「つってもよー…仕事ねぇーもん。」
「ありますよ!!掃除とか、家事とか、洗濯とか!!っていうかその仕事こそ探しに行けよ!!大体銀さん何もしないじゃないですかっ!!神楽ちゃんの方が家事、少しはやってるんですよ!?定春の世話に、それから、えっと……せ、洗濯とか!!」
「駄眼鏡に、私なんかの服触らせないアル。当たり前ネ。っていうか取って付けたように言うんじゃねぇヨ、駄眼鏡が。」
「あ、いや、ごめん……あれ?俺、今褒めたよね?それで何で俺けなされて怒られてる訳っ!?ちょ、神楽ちゃん!?」
「まーまー、喧嘩すんなって」
「オメーに一番言われたくねぇよ!!ニート!!」
「あ、ひでぇ。」
「新八、銀ちゃん危機感持ってナイのいつもの事。期待しただけ損ネ。」
「あ、うん。それは知ってる。」
「……なぁ、俺、泣いて良い?」
相変わらずの万事屋だ。
悲しいくらい、相変わらず過ぎて姉上の意見が輝いて感じて来てしまう。
「大体銀さんは…」
「オイオイオイ。なんでお前、そのままおこた入ってんだよ。俺のおしるこは?」
「私の抹茶ラテ早く持って来るネ、使えん奴アルな」
「テメーら自分でやるっつー選択肢ねぇのか!!僕だって寒いんですっ!!今さっきまでこの寒い中外歩いて来たんですっ!!暖まったってバチ当たらないでしょう!!」
「解ったアル。銀ちゃん押し入れに太鼓道具まだあったアルか?」
「神楽ちゃんそのバチ違う!!」
「じゃー銀八ィ。ホットミルクに蜂蜜入れたやつで良いからさぁ…そろそろ銀さん糖分接種しないと干涸びちゃう…」
ぐてぇ…と、力の抜けた猫のようにコタツに突っ伏して哀れオーラ全開。
ついでに言えば、上目遣いも全開。
正直、それをやられると僕は弱い…
だって、なんていうか、いたたまれない……から?
こんな事を思った時点で僕の負けなので、諦めるしかない。
「あのねぇ……はぁ…。ったくもォ、ほんっとーに、この大人は…。神楽ちゃん、抹茶ラテじゃなくて銀さんと一緒ので良いなら作るよ?いる?」
「勘弁してやるネ」
「はいはい。じゃーそれまでにコタツのまわり位片付けといて下さいよ。いっちょ前に蜜柑にジャンプに、トランプ…あーもうUNOまで持ち込んで。」
勿論タダでやると味を占めた二人が次からこの倍のお使いを僕に言い出しかねないので、ちゃんと仕事を言いつける。
とか考えてるそばから、問題発生。
僕の目の前を丸められたティッシュがポイポイ飛んで行く。
「ほいネ!!」
「ちょっと神楽ちゃん!!コタツからちゃんと出る!!ゴミ箱にゴミを投げ入れようとしないの!!」
「ぐちぐち細かい奴ネ、大体コタツから出たら寒いアル。新八、女の子は体冷やしちゃイケないもんだってお登勢も言ってたアル。」
「そーそー。」
「それがコタツ出て台所で作業する人に言う事かぁっ!!っていうか銀さん女じゃないでしょ!!いっその事コタツごとひっぺ返しますよ!!」
「それだけはご勘弁を!!」
「じゃー、さっさと出て!!ちゃんと片付ける!!はい!!」
「了解!!」
「神楽ちゃんも!!」
「えぇー…」
「抹茶ホットミルク…」
「解ったアル!!新八!!」
「よし。」
二人がチャキチャキと働き出したので、僕も役目を果たすべく台所へ向かう。
確か昨日牛乳と卵の安売りだったから、ちょっと多めに買って来て置いたはずだ。
冷蔵庫を開け、今度は戸棚の下を覗く。
そこから蜂蜜を…
「……ん?」
蜂蜜の隣にあったものを見て、僕はちょっと考える。
これだったら…
掃除も終わった万事屋の居間。
「新八おっせぇなぁー…」
「私のホットミルク、まだアルかー?」
「だー、もう、神楽。」
「ん?」
「酢昆布なんか食ってねぇーで、台所行って来てよ。」
「嫌アル。私より仕事してない銀ちゃんが行くべきヨ。」
「あぁん?俺だってちゃんと仕事ならしてるって…あれだよ、ほら、えぇっと…あれだって。」
「見事なまでに説得力を感じないアルネ、銀ちゃん。それより定春の方が働いてるネ。」
「何ぃ?そんな、馬鹿な事いうんじゃありません。」
「じゃー言ってやるネ。定春、まず昨日は新八の買い物に私と一緒、付き合ってたアル。」
「…そりゃ神楽と一緒だからだろーが」
「スーパーの袋持ってたネ。仕事してる。」
「あの犬、そんなことしてやがったのか…」
「それから、新八が洗濯物取り込んでた時も手伝ってたアル」
「オメー、そんな、新八がそんなの許すはずねーだろ。ペットの毛が付いた洗濯物ってーのは、主婦の天敵だぞオィ」
「心配ご無用。ちゃんと定春の背中、私の風呂敷かけてやったネ。新八も定春も大喜びネ」
「むぅ…そりゃやっかいだな…」
「何でヨ?」
「そりゃ、銀さんのほら、地位ってもんがさぁ…」
「………。」
_カチャ、カチャン
「そういえば…居間、静かだなぁ…」
所変わって台所in万事屋。
黙々と作業に没頭していて二人の事を忘れていたが、普段ならこんなに時間がかかるとどちらかが台所に突っ込んで来る頃だ。
来ないという事は、どれだけコタツに入り浸っているのだろう。
「ま、良いけどね。って、うわっ!!ナベ吹いてるっ!!」
慌ててナベの上に顔を出したものだから湯気に眼鏡を真っ白にされる。
それでも笑った顔がみたいから。
だから…
「もーちょっと、待ってて下さいね~っと…」
所戻って、居間in万事屋。
「………はぁ。新八遅いアル。私の抹茶ミルクまだアルか~?」
「え、ちょ、神楽、スルー?スルーなの?」
「うっさい。寧ろ呆れてトビウオが飛ぶよりもぶっとんで、土鍋入ってった所ネ。馬鹿馬鹿しいアル…あー、もウ、情けないアル。」
「あー、トビウオかぁ…アイツでダシ取った鍋旨いよなー…」
「違うネ!!人の話耳の穴かっぽじって聞くアルヨ!!銀ちゃんの自分のその地位の話、勘違い具合に阿呆臭くなったヨ!!」
「あんん?一家の大黒柱に何を…」
「銀ちゃんの地位、縁の下より下ネ。一番下ヨ!!どう見ても新八のヒモにしか見えないアル!!定春より上って思てる所、特に一番下でヒモな奴がよく言う事アル!!」
「んだと神楽!!お前、そーいうのはなぁ!!」
「あぁんっ!?ヒエラルキー最下位が何言うネ!!」
「ひ、ひえ、冷え?え、稗?」
「ヒエラルキー、ですよ銀さん。」
あまりにも阿呆らしい喧嘩だったので、放って置いたものの流石に寒くなって来たので突っ込んだ。
全く、大人しいと思ったらすぐこれなんだから…
「ヒエラルキーって、何それ。」
「ピラミッド式の階級制度の事です。神楽ちゃんと僕の考えだと、銀さんは一番下です。」
「容赦なく言いやがったなこの野郎!!いやそれよりも、俺のホットミルク!!」
「私のネ!!」
「俺の!!」
「私ネ!!」
「静まれこらァ!!そんな事してると、プリンあげませんよ!!」
「「はい……ん?」」
「ん?」
「あれアル?」
「な、なんですか?ちょっと、二人して…」
じーっとこちらを見つめてくるふたつの眼。
綺麗な蒼い瞳と、紅い瞳。
あ~…やっぱり、駄目だったかな?
「新八、今なんつった?」
「え?だから、プリン…あ、やっぱりホットミルクの方が良かったですか?いや、卵と牛乳一杯あったし、何か蒸し器もみつけて。こういう温かいの食べた方が体温かくなると思ったんですけど…すいません、やっぱりホットミルクの方が…」
「でかした新八!!」
「へっ!?」
「すっゲェーアル!!新八!!ホットミルクじゃなくて、ホットプリンアルかっ!?」
「うっわ、スゲ!!おい、神楽見てみろ、旨そう!!」
心配は、なかったようで。
思わずそのはしゃぎようにちょっと笑いつつ、でもお行儀良くして貰うのも忘れずに。
「ホラホラ、座って座って。あ、神楽ちゃん、これ定春の分。外に散歩に行ってるみたいだから、帰って来たらあげてね。」
「了解…アル…じゅる…」
「……言っとくけどそれ犬用だから、甘くないからね。」
「むぅ…残ね…いやいや、そんなの知ってたアル!!あ、帰って来たみたいネ、あげて来るアル!!」
_バタバタバタ…
「う~ん……あの涎を拭いてから言えば、まだ良かったんだけど…。まぁ、合格、かな?」
「新八!!新八ィ!!まだかよ!!ちゃんと片付けもしたんだから、銀さん待てない!!」
「いや、そこは待とうよ!!神楽ちゃん怒るよっ!?」
「嫌だね。新八が折角あったまるように作ってくれたんだぜ?早く食わねぇと、おかわりだ何だで新八がまたおこたに入れなくなっちまうじゃねーの。」
「自覚あって言うなよ!!全く…」
「だーかーらっ!!ほい。」
「……なんですか、これ」
目の前には、僕の待ったを聞かずにすくったプリン。
そしてその先にはニコニコとした笑顔の銀さん。
「はい、あー…ん…」
「なっ……………はっず!!」
「んだよ、俺の愛が受けと…」
「れねぇよ!!出来るかそんなん!!」
「んな、照れんなって。ほら、あーん…」
「だぁあぁぁぁっ!!もう!!僕帰りますよ!!」
「それは銀さん困る!!この間新八本当帰っちゃったんだもん!!嫌っ!!」
「幼稚園児ですか、アンタ…。じゃーほら、ちゃんと大人しく食べて下さい。」
「あいよっと。ちぇ~…」
口を尖らせている銀さんを見て、思い出した。
あぁ、そうか。
何で姉上があんな事言い出したか、思い出した。
そう、この間もこんな感じで銀さんに茶化されて。
恥ずかしくて本当に帰って。
そのまま帰ったら姉上に聞かれたもんだから、照れ隠しで姉上に愚痴り半分で話したんだった…
あー…
「……あ、あー………あー…ん…」
「ん?どした、新八。」
「あ、いや。ど、どうしてもって言うんなら、貰っても良いかなぁ…と。その、プリン。」
「………。」
「………。」
「………。」
「…………何で黙るんスカっ!!解りましたよもう!!帰りますっ!!」
「いやいやいや待って!!ごめん!!今のは銀さんが悪かった!!帰らないで!!あげるから!!」
「俺は!!食べたくて言ったんじゃありません!!」
「え、えっと…」
「…食べたかったら、味見でもう十分ですっ!!だから、その、僕は…」
「新八?」
「銀さんから、貰いたかっただけ、です……」
「…………可愛いな、お前。」
「可愛くないです。」
あぁ、そんな愛おしそうな目で見ないで下さいよ。
そんな目で見てもらっちゃったら、困るんですよ。
「お前さぁ、この間とか家帰って泣いたんだろ?ちゃんと、そーいう時は銀さんの前で泣きなさい。 ………銀さんここにいるんだから。」
台所が寒かったから、それとも外が寒かったせいか。
ぎゅっと抱き締められると、その温もりに思わず安堵する自分がいる。
気が付いたら…
ぽろぽろ、ぽろぽろ…流れ出る温かいもの。
恥ずかしいのと、悔しいのとで堪えていた涙が出て来てしまった。
「……馬鹿ですか、アンタ。」
「おー、馬鹿だ馬鹿だ。なんか知んねーけど、地位は最下位みたいだけどなー。俺、新八の一番なら、後は何でも良いから。新八馬鹿だから、いーの。」
こんな事をサラッと言ってしまうこの人は、本当…
「馬鹿ですね、銀さん…」
姉上が怒っていた原因は、この侍がヒモとして僕にくっつくんじゃないかと心配してだったらしい。
でもその事に気付くのは、神楽が定春に姉上を乗せて登場するあと48秒後の話。
うわぁぁぁあ!頂いちゃいましたよヒモ坂田な万事屋(銀新風味)!
『Escape of pity
いつも拍手でお話して頂いているお友達(と私が勝手に思っている方←)ですvv
青島さまとはいつも拍手で「坂田は絶対マダオのヒモ!」という会話をしていたのですが、まさかまさかこんな素敵小説を頂けるなんてビックリサプライズでした……!
坂田が駄目人間すぎてもう最高ですよ!(笑←
馬鹿二人に振り回されたりそれでも甘やかしちゃったりな新ちゃんにきゅんきゅんでしたっ!
個人的にはお妙さんにアイスをつっこむ新ちゃんに一番萌えさせて頂きましたvv(笑
青島さま、素敵坂田家だけでなく素敵志村姉弟もありがとうございましたvv
いつか必ずお礼させて頂きますね!