「あ、おかえりなさい高杉さん」
久しぶりに江戸に立ち寄り、煙管を片手にぶらついていると聞きなれた声が俺の名を呼ぶ。かぶっていた笠を少し上げて見ると、買い物袋を持った壊したいくらいに愛しい人間が目の前にいた。
「こっちに来てたなら言ってくれたっていいのに」
ガサガサと袋の音をさせて駆け寄って、眉を下げて笑う新八。
最後に会ったのはいつだったか。考えても思い出せねェってことは、それだけ会ってねェってことか。久しぶりに会うってのもあって、いつも以上に新八が愛しく思える。
ただ、気にもしていなかった買い物袋がふと目についたのがいけなかった。
「…なぁそれ」
「? あぁこれですか? 実は昨日の仕事でたくさんお金入ったんで、今日の夕食はみんなでおいしいもの食べようって銀さんが。それで、僕が買い出しに……って高杉さん、どうしたんですか?」
銀時。なんでこいつの名前が出てくるんだ。それもお前の口から。
先刻までの気持ちはどこへやら。今はもう、アイツへの醜い感情が俺を支配していた。黒い感情がどんどん溢れてきやがる。抑えねぇと。抑えねぇとまた、またコイツを…。
あぁだめだ。コイツをめちゃくちゃに壊してやりたい。
「どこか悪いん…ちょ、高杉さん?」
まだ言い終わらないうちに新八の手をひっつかんで路地へ連れ込む。人が少ないのが俺には好都合で、新八をつかんだ手首ごとダンッと壁に押し付ける。
「い…たぁ」
その拍子にもっていた買い物袋がドサリと落ち、小さくうめき声をあげ見上げてくる新八をしばらく見下ろす。
「ど、どうしたんですが高杉さっ、ん!」
不安と恐怖が少し入り混じった瞳で俺を見つめているのが気に入らなくて唇をふさぐ。
開いている手で押し返してくるが、ぐっと体を近づけ壁と挟まれているような体勢にすると、身動きができなくなり力を入れられなくなったのか、ただ添えられているだけになってしまっていた。
「ふっ…ん…」
酸素を求めて口を開いたすきに舌を入れ、好き勝手に動き回る。いいように弄ばれている新八の目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。
「ん、ぁ…」
唇を離すと、新八は苦しかったのか肩を上下させていて、飲み込み切れなかった水液が顎を伝っていた。伝い落ちる前にそれをなめとり、そのまま首筋へと舌を這わせていく。
そして歯をあてて、かみついた。
「っ!」
ビクンと体がはね、うめき声をあげた新八の瞳からは、痛みからか涙が頬を伝いこぼれおちた。くっきりと歯後がついた首筋からは血が流れている。その血さえもなめとって、肩へと移動し、かみつく。
「た、かすぎさっ、いたっ」
ふるふると体を震わせ体をこわばらせる新八を無視し、肩にかみついたまま左の太ももを袴ごと切りつける。傷口からきれいな赤い血が流れ落ちるのを感じながら、肩から口を離すと、新八の瞳からは涙がこぼれおちていて、体はふるえこわばったままだった。
そこからは、よく覚えていない。
わかるのは、さっきまで黒い感情が嘘のようにきれいさっぱりなくなっていて、傷だらけでぼろぼろになった新八が目の前で倒れていて、そして、あぁまたやっちまったと、後悔の念があることだけだった。
なぜ、どうして。
どうして俺はいつも大切な物を傷つけちまうんだ。
俺が今、新八に触れたとしてもまた怖がらせちまうだけだ。
笠を深くかぶり直し、失神したままの新八をそこに残したまま、来た道を戻る。
右の頬が少し濡れた気がしたが、そのままにしておいた。
※※※
「たでーまー」
誰もいない万事屋に声をかける。まぁ返事なんか返ってこないんだけど。神楽は遊びに行っちまってるし、新八は今日の夕飯の買い出しだし。そんで暇な俺はジャンプ買いに行ってたわけだし。
今週のワンパークはどーなってっかなーなんて考えながらブーツを脱いで廊下を歩いて行くと、所々に赤い染みがあるのに気づく。
染み…いや、血? なんで血なんか廊下についてんの。
よく見ると、玄関から転々と続いている。それはリビングまで続いていて、ソファのところで終っていた。ソファまで歩いて行くと、包帯やら絆創膏やら消毒液やら、救急箱の中身がそっくりそのまま散らばっていて、そしてその原因である人間が、救急箱の中身を一番多く身につけてソファの上に横たわっていた。
「しん…ぱ、ち?」
何度か新八が怪我をして帰ってくることはあった。だけどこんなに酷かったことは今までに一度だってなかった。
とたんに最悪の事態が頭をよぎり、どうしようもなく不安になって。新八に駆け寄ってその細い手を握ると、よく知った温度が伝わってきた。
あぁよかった、生きてた。
あんまり強く握っていたせいか、小さくうめき声をあげて目を覚ました新八。その顔は疲れ切っていて、頬や額にも絆創膏や包帯がついていた。
「…おかえりなさい。すみません、寝ちゃってたみたいです」
いまゆうはんつくりますからねー、なんて舌足らずに言ってふにゃりと笑った新八。
神楽が帰ってきてなくて本当によかった。なぁ新八、お前、そうやって帰ってきた時はいっつも目が笑ってないって知ってるか?多分気づいてないよな、何でもない風に振舞ってるんだから。
「…どうしたんですか、そんな泣きそうな顔して」
そりゃ泣きそうにもなるわ。
好きな奴一人守ってやることができねェ、こうやって見ていることしか、傷ついていくお前を見ていることしかできねェんだから。
「なぁ新八、俺を好きになれよ」
どうしようもなく不安で、もうこれ以上傷ついていくお前を見ていたくなくて。ゆっくりと新八を抱きしめて肩に顔をうずめて、聞こえるか聞こえないかのギリギリの音量で呟く。
「それは、できませんよ」
小さくてもはっきりと聞こえた言葉。どうして、とそのままの体勢で聞き返しきゅっと力を強めると、新八は俺の背中に手を添えた。
「それでも、僕はあの人が好きなんです。こんなことされちゃいますけど、見捨てられないんですよ」
背にまわされていた手がいつの間にか俺の胸板を押し返していて、ゆっくりと離れて新八の顔を見ると、今度はちゃんと感情のある目をしていた。ただ、濡れていただけで。
「…僕、愛されてる、んですよ」
ぽろぽろと泣きだす新八の姿は、見ているだけでとても苦しくて。頬に手を添えてやることしかできなくて。本当、どうしてこうなっちまったんだ。
俺なら お前を 愛してやれる のに
(それだけお前が大切だから、だから笑って、それ以上は何もいらないから)
お題提供:Fortune Fate
BGM:「MOON」 浜崎 あゆみ
……………っ!!!(ドンドンドン/悶
ちょっとちょっとちょっとぉぉ!!泉さまから再び素敵小説頂いちゃいました!
DV高新小説!しかも「高新←銀」風味!!(ニヤニヤ!
腐向けメモ2と3で私が「DV高新マジやべぇマジぱねぇ!」とかキャキャー騒ぎまくってたんですが、まさか書いて頂けるなんて…!
首筋噛まれる所とか新ちゃん超エロい…!(ハァハァ←
新八が大好きなのに上手く愛せない杉とか!
それでも一途に杉を好きな新八とか!
俺ならお前を大事にしてやれるのにと思ってる坂田とかぁぁああご馳走様ですぅぅ!(超土下座
何気にメモで私が書いてた文章をさりげなく入れて下さってるあたりウハウハですvv
泉さま、素敵なDV高新小説をありがとうございました!
これからもお付き合い頂けると嬉しいですvv