飛翔さまより、『うちの日向受けについて』で描いてた研日・トサチビの設定を使った小説を書いていただきました。

にょたひな♀ちゃんで研日・トサチビでデートに行くお話です。

研日・動物園デート

 大好きな人はすごく遠くにいる。その距離約350km。会いたいと思っても、簡単には会えないのだ。
 メールや電話で連絡は取り合っているけど、それじゃあ足りない。今すぐ会って触れ合いたい。ぎゅーって、抱き締めたい。

「寂しいよ、けんま…」

 いつか電話で、そんなことを言った気がする。そのときは孤爪も、俺もって言ってくれたからすごく嬉しかった。どことなく気だるげで、無気力で、なんでバレーをやっているのかわからないくらいやる気が無さげだけど、あれが孤爪の、全力の「大好き」だって日向は知っている。だから、あの言葉がどれだけ自分を思っていてくれているかなんて、すごくわかる。伝わってくるのだ。
 だから、それだけで充分だった。本当は、研磨が足りなくて足りなくて、どうしようもないけど、それでもあの言葉で心は満たされた。…なのに、

「なにこれ…」

 部活に疲れて帰ってきた自分の勉強机の上には、紙切れがあった。よく見ると、東京への切符だった。急いで孤爪に電話をかける。早くでて、小さく呟くと、それを聞いていたかのように、タイミングよくコール音が切れた。

『…もしもし?』

 コール音の代わりに電話越しから聞こえたのは、いとおしくて堪らない、孤爪の声だった。

「研磨!? ね、おれの机の上に東京行きの切符あるんだけど!? なにこれ幻覚!?」

 興奮しすぎて、全てノンブレスで言ってしまった。翔陽落ち着いて…と、孤爪の声がする。これだけでも笑みが零れる。自分は結構重症なのかも知れない。

『翔陽が寂しいって言ってたから… それに、今度東京を案内してって言われたし。だから…』
「けんまぁ~~!!」

 嬉しい。
 片道分しかないけどって言われたけど、こうしてくれるだけで物凄く嬉しい。ちょうど次の休みは連休だし、すぐに行ける。研磨なりの気づかいなのかな? そう思ったら胸の辺りがきゅーっとなった。

「じゃ、次の休みに行くね!」

 次の休みまであと2日。たったそれだけの短さなのに、日向は待ちきれなかった。

 ***

「けーんまぁ!!」
「わ、ちょ、翔陽… 苦しい…」
「えへー、ごめん」

 でも会えて嬉しいんだもん、そう言ったら心なしか、孤爪は嬉しそうに笑った。気がする。

「で、どこにする? 東京タワーとかは前行ったよね?」
「うん! あのね、実は調べて来たんだ!」

 じゃーん!と言って、使い古した折り畳み式の携帯画面を見せる。そこを見ると「板橋区立こども動物園」と書いてあった。

「動物園…?」
「うん! あのね、ここって可愛いモルモットを抱っこできるんだって!」
「へー…」

 その他にも、うさぎやヒツジ、ポニーもいるんだって! と、嬉しそうに語る。その姿を孤爪は、可愛い。そう思って見ていたなど、言うまででもない。

 ***

「ふぉああああ!!」

 研磨! モルモット! かわいい! そう叫ぶ彼女はいったい何なのだろう。天使だろうか。うん 、間違いない。モルモットのふれあい広場にいたその場の全員が、そう思っただろう。

「翔陽、落ち着いて」
「だってこんなにかわいい…!」

 抱えられたモルモットも、嬉しそうにしている。翔陽は人だけじゃなくて、動物にも好かれるのか。ふと孤爪はそう思った。いつも日向の周りには沢山の人がいる。だから、そんな日向を自分のものにできたのはすごく嬉しかった。今まで誰かに執着したことは無かったため、尚更だ。
 自分はいつの間に、こんなに好きになっていたのだろう。どうやら自分が思っていた以上に、日向のことが好きらしい。
 だからかな、モルモット相手に嫉妬するなんて――

「…翔陽」
「どーしたの、けん…ま…?」

 声がするほうを向いたら、孤爪の顔がすぐそこにあった。その距離僅か10㎝。あとちょっとすれば、キスができそうな程で。ここは外なのに、なに考えてるの、研磨!!? 日向の脳内のキャパシティはそろそろ限界だった。

「翔陽…」
「ちょ、けんま? けんまさーん?」

 近づく孤爪に、思わずたじろぐ。限界だっていうのに、もうやめて欲しい。ここで倒れたら、どうするんだ、おれ。そう沸騰寸前の日向に、孤爪はキス――




 ではなく、彼女をぎゅううと抱き締めた。



「…へ?」

 意味がわからない。孤爪は今、キスをしようとしていた、はず。
 でも今されているのは、キスではなく、ただのハグだ。いや、ハグもそれはそれでマズイのだが。

「研磨…?」
「モルモットばっかりズルい… 俺にも構ってよ、翔陽…」

 日向の腕の中にいたモルモットが逃げ出す。そしたらより一層強く抱き締める。例え男の子でも小さくて華奢なのであろうその身体で、孤爪を抱き返す。

「…ごめんね、研磨。でもおれ、研磨のこと大好きだから。…だから、安心して?」
「翔陽…!」
「けんまぁ~」
「しょーよー」

 完璧に二人の世界に入っているため忘れがちだが、ここは動物園。そしてふれあい広場。よく人がいる場所である。他人の視線に気づいたのはこれから結構後で、日向は気恥ずかしそうに「すみません…」と言ってその場から離れた。

 --孤爪と恋人繋ぎで。